声を届けて

□第6話
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エンジェルスター騒動の翌日
自分此処にあらず、というように意識をトリップさせているバンをみてアミとユキノはお互いに顔を見合わせ小さく溜め息をついた。
そんな中、クラスに必ず一人はいる良い言い方をすればムードメーカー、悪い言い方をすれば馬鹿、という残念な性格のリュウが「大ニュース!」と騒ぎながら駆け込んできた。

「このクラスに転校生が来るってよ!」

「転校生?」

まぁ、何とも中途半端な時期に転校してくるな…とユキノは思っていた。
やはり中学生と言ってもまだまだ子供、『転校生』と聞けばテンションの上がる子は上がる。
その情報を伝えたリュウに対し質問攻めが始まった。

「はーい皆席について!」

クラスの担任が出席簿を手に入ってきた。黒板の前に立つやいなやいつもの通り出席を取り始めようとする担任。開けっ放しのクラスの扉からは転校生はおろか人が入ってくる気配すらない。

「おいおい…」

リュウはクラスからまるで「どうなってんだよ」と言うような視線を向けられていた。

「せ、先生!!転校生は?」

視線に耐えられなくなったリュウは思わず担任に聞いてしまった。良からぬ方法で情報を手に入れたのか気まずそうな顔をしていた。

「盗み聞きしてたのね…」

「それは!?…すみません」

「リュウ君の言ったように今日このクラスに転校生が来ますただちょっと遅れてるようで…?」

突然地震が起きたように教室が揺れ始めた。

「何…?」

「戦闘機だ!!」

突然クラスの生徒が騒ぎ始めた。

「戦闘機…?」

ユキノはそんな馬鹿な…と外を覗けば確かに戦闘機が旋回飛行をしていた。

「ぶ、ぶつかる!!」

教室にぶつかって来る勢いで飛行する戦闘機に生徒たちはパニックを起こしていた。…が
戦闘機はバン達の教室すれすれで停止した。
ハッチが開くとそこには戦闘機を操縦していたと思われる執事服姿の男性とヘルメットを被った少年。少年はヘルメットを取ると男性に投げ渡した。
黒と白が特徴的な髪形の少年は男性から「お坊ちゃま」と呼ばれていた。

「なっ…!!?」

ユキノは少年を見た途端に目を見開き首筋に有るタトゥーを押さえた。
少年は戦闘機の翼を伝い窓から教室に入ってきた。

「遅れてすみませんでした」

海道ジン…ユキノが一番会いたくない人物だった。


「み、皆、とりあえず席に着きましょう」

前代未聞の戦闘機登校を目の当たりにした担任はとりあえず困惑している生徒を席に着かせた。
そんな中…

「せーんせーい」

「どうしたの?ユキノちゃん?」

ただただ平然とした様子のユキノはジンの事など気にしないような様子で手を挙げた。

「体調悪いんで保健室行ってきます」

「え、海道君の自己紹介を聞いてから…」

「先生」

自己紹介を聞いてから行きなさい、と言おうとした担任の言葉をぴしゃり、と止めるユキノ。教室の後ろの扉を開ければ不敵な笑みを浮かべ担任を見た。

「先生使ってる化粧品よりも別の会社の化粧品の方が評判良いですよ、あとカレーをあの材料で作るならシナモン入れた方がおいしいですし」

それだけ言い教室を出れば後ろからは「何で知ってるのー!?」と悲鳴のような声が聞こえたとかなんとか…


保健室など行くわけもなく久しぶりに体育館裏のスラムに向かったユキノは郷田の所にいた。

「何しに来たんだよ、ユキノ」

「いいじゃんか、私がどこで何をしようが」

「だからってここをサボり場にするな」

「無法地帯にいる番長さんが何言ってんだか」

郷田のいつも座っているソファーに腰掛けハカイオーのメンテナンスをしながら話をしていた。

「ねぇ、郷田…」

「何だよ」

「ハンゾウって呼んでいい?」

「なっ…!?」

郷田の手にハカイオーを置き名前で呼んでいいか、と聞くユキノに郷田はキョトンとしていた。

「ダメ…?」

「いや…別にいいが」

「ありがとう、ハンゾウ」

ニコッと笑いかけてくるユキノに不覚にもときめいてしまった郷田はそれを誤魔化すようにユキノの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「うわぁ!な、何するのさ!!」

髪型が見事に崩れてしまえばユキノは手櫛でその髪を整えていた。

「なぁ、お前のLBX見せてくれよ」

「…はい?」

突然の郷田の申し込みに髪を整えていた手を止めた。

「『箱庭の天使』…過去一度だけ出た大会で見事なバトルを見せ、ついた名前…その名は伊達じゃねぇだろ?」

「………バトルしない?」

「あぁ」

「絶対?」

「…あぁ」

「絶対、絶対、絶対、絶対、ぜっ」

「しつけぇよ!!!分かったっつてんだろうが!!」

頭をバコッと殴られたユキノは半ば涙目になりながら鞄に手を入れた。
取り出したのは白と水色のカラーリングが特徴的なストライダーフレームの機体。西洋の鎧のようなヘッドから覗き込む鋭い視線はどんなものも見逃さない、と言うような目で、手に持つ弓と背中についている翼がまさに天使のような神々しさを醸し出していた。

「これが」

郷田はその機体のあまりの美しさに息をのむ。その姿を人で問えるなら聖女ジャンヌが相応しいだろう。

「名前は『イスラフェル』イスラム教の音楽の天使の名前、基本装備は弓矢ミカリエル、隠し持っているクナイは天邪鬼」

「これ、全部お前が作ったのか?」

「うん全部一からね」

苦労したよー、とユキノが過去の思い出に浸る中郷田は男の性、いや、LBXプレイヤーの性と言った方がただしかもしれない。バトルがしたくてウズウズしていた。

「なぁ、バトルしねぇ…」

「ハンゾウ?ハカイオーのレッグ、ブルドみたいなタンクにしてあげようか?」

その時のユキノの笑顔が冗談に見えなかった為か郷田は黙るしかなかった。
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