声を届けて

□第14話
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定刻となり会場は大きな盛り上がりを見せていた。明るく場内を照らしていた照明一気に消え会場中をスポットライトが駆け巡る。

『いよいよクライマックス、世界一のLBXプレーヤーを決めるアルテミス、ファイナルステージ!ご紹介しましょう、激戦を勝ち抜いてきたファイナリスト達です!!』

スポットライトはアリーナの中央ステージを示す。照らし出されたファイナリスト達は各々が強い意志を持っているようだった。

『まずは、秒殺の工程の異名を持つ天才海道ジン、操るLBXはエンペラーM2、経歴、戦闘スタイルなど全てが謎、ミステリアスな仮面の騎士、マスクドJ、LBXはマスカレードJ、驚異の新人、奇跡の超新星、山野バン、LBXはアキレス、特撮ヒーローを彷彿とさせる戦いで勝ち上がってきたこの男はファイナルステージで本物のヒーローとなる事が出来るのか?ユジン又の名をオタクロスの弟子、LBXはビビンバードX、今大会のダークホース、謎に満ちたLBXプレーヤー、灰原ユウヤ、LBXはジャッジ、ファイナルステージの紅一点、純白の死神はファイナルステージでも舞ってくれるのか?ユキノ、以上六名により優勝が争われます!』

灰原が全身に纏ったマントを仲間に脱がせてもらった。現れたのは前進紫色の特殊スーツのような格好。ユキノはその服装をどこかで見た事があるような気がしていた。
会場の明かりがスポットライトとクロスフェードすると同時にユキノの立っている中央ステージがファイナリスト達全員を載せて高さを上げていく。ステージの中心から現れたのは六角形に成形された火山地帯のDキューブだった。

『ファイナルステージは生き残りをかけたバトルロワイヤル、自分以外はすべて敵という状況の中で勝ち残ったものだけが勝者となる過酷なサバイバルバトル!優勝し超高性能CPU、メタナスGXを手に入れるのは果たして誰なのか!!』

決勝を今か今かと待ちわびている観客たちの歓声が会場内にこだましている。ビリビリと伝わる。

『では!第三回世界大会アルテミス、ファイナルステージバトルロワイヤル、レディー!!』

司会の掛け声とともにファイナリストの六人が各々の期待をDキューブ内に投下していく。

「スタンバイだ」

灰原の背後の少年が一言言うと灰原は無言で手を前に出す。手の先からは何かの画面のようなものが投影された。

「何だあれ」

「あのスーツがCCMってこと…?」

「…っ」

会場中が少しどよめく。この時、ユキノの首筋に少しだけ痛みが走った。

『バトル、スタート!!』

司会から試合開始が告げられた。
開始早々始まる激しいバトル。ユキノは先程までの試合とは違い最初から姿を現していた。

「狩らせてもらうよ!」

ユキノは手始めに近くにいた、ジャッジに攻撃を仕掛けた。ジャッジは攻撃をいなすようにしてよけていく。早すぎる反応速度はおそらくCCMスーツによるものだとユキノは即座に判断したそれはバンやジンも同じようだ。

「くっ…攻撃が与えられない…!」

「おらー!悪党共ー!!」

二人の攻防の中突然横槍を入れてきたのはユジンだった。
二人はぎりぎりながらもユジンの攻撃をよけた。ユジンの標的はどうやら灰原のようだ。
その様子にユキノは一度二人から距離を置いた。
流石はバトルロワイヤルということもあり試合は徐々にヒートアップしていた。

「あいつ…ビビンバードXの攻撃まで…」

やはり気になるのはジャッジの行動。
いくら死角から弓をはなっても避けられてしまうのだ。

「サイコスキャニングモード」

背後にいた灰原のチームメイトがパソコンを操作すると灰原自身の髪の色素は抜け目の色も赤く変化した。

「何だ…ぐっ…!!」

灰原の変化に会場中が唖然とする。ユキノも例外ではなかった。
目を見開きながら灰原を見ていたユキノだが突如首の痛みが激しさを増し体全体に広がりだしたのだ。その痛みは治まることなく持続し続けた。
サイコスキャニングモードになった途端ジャッジは怪しげに光りだしスピードやパワーが共にアップしていた。

「サイコスキャニングモード、データ収集開始」

灰原のチームメイトが誰かに指示をされているかのように動き出す。
痛みの中彼らの様子も気にかけながらユキノはジャッジに攻撃を仕掛けていた。

「(やばい…痛みで照準が…!)」

体中をかける痛みは海道義光与えられたものに似ていた。

「いやな痛みだ!」

痛みに耐えながらも反撃を仕掛ける。一度弓をしまい懐からクナイを取り出す。接近戦に持ち込んではジャッジと互角の戦いをしていた。

「お前…どこかで…」

最初の時、アルテミスの会場で初めて見たときに感じた違和感。思い出そうとして過るのは幼いころの地獄のような日々だった。

「パワースラッシュ」

『アタックファンクション、パワースラッシュ!』

CCMスーツが必殺ファンクションを告げた瞬間それまで無表情だった灰原が突然苦しみだしたのだ。そして、それと同じようにユキノの体の痛みは増大し立つこともままならなくなり態勢がぐらついた。
何とか必殺ファンクションは避けたがその流れ弾にあたったのはマスカレードJだった。

「ん…あ゛っ…!!」

突然苦しみだしたユキノと灰原にプレイヤー達は戸惑うも試合は展開していった。
灰原のスーツからはバチバチと電流が走っている。
先程まで苦しんでいた灰原だが一度脱力したかと思うと今度は狂ったように笑い出した。
仲間が彼に触れようにも電流により触れることすらできなかった。
ジャッジはビビンバードXの頭部を壁に何度も押しつけ最終的には首をもぎ取るというむごい行為に出た。頭部をもぎとった後も残った肢体の部分を持っていた剣で何度も突き刺し続けるという常人とは思えない行動に痛みに耐えながらユキノが飛びだした。

「や、めろ…もう終わりだ」

「くく、あはははは!!」

声を上げ笑う灰原にユキノは恐怖を覚えた。
ジャッジは標的をイスラフェルに変え荒々しい攻撃を繰り出してくる。

「ははは!!……一人に、しないで…」

「っ!?」

灰原の笑いが止まり発せられた言葉にユキノは驚いた。
再び笑い出す灰原。ユキノは攻撃を避けるので精一杯だった。
その後も笑っては一人にしないでと呟く灰原。
ユキノは痛みに意識を奪われそうになっていた。

「一切の指示を受け付けません、被験体制御不能です」

「被…験体…!!」

チームメイトの言った被験体というワードにユキノは目を見開いた。


―昔…ジンと会って少しした時、実験室に一人の男の子が来たんだ―


―その子はずっと孤独を怖がってた―

『おとうさん…おかあさん…ひとりにしないで…』

―名前も知らないけどその悲しそうな声は今でも覚えてる―

『ねえ、ひとりじゃないよ…?』

『わたしもいるよ』

『だから、』

『泣かないで…?』




「き、みは、あの時の…」

ユキノは灰原が昔、自分と同じ実験室にいた少年だということに気がついた。そして後悔した。自分が一人で屋敷を抜け出さなければ彼はこんなに苦しい思いをしなくてよかったんじゃないかと。

「灰原…」

荒々しく動くジャッジはまるで灰原の苦しみのようだと思った。一人にしないでと涙を流す彼を見ているのが辛かった。
アキレスとジ・エンペラーがジャッジに攻め込んでいく。ユキノも慌てて加勢しようとしたが激しさを増す体の痛みにとうとう膝をついてしまった。

「ユキノ!?」

「あ゛…ぐっ…」

カズが慌ててユキノの体を支えようとするがユキノはそれを拒んだ。

「へ、いき、だから…あの子を、止めなきゃ…」

CCMをしっかり握りなおし何とかアキレス達の援護に向かう。だが、暴走したジャッジはいとも簡単に三体を跳ね返してしまう。

「あの剣を避けなきゃ至近距離からの攻撃なんて無理よ」

「っ…なら…私がジャッジの動きを止める…」

「ユキノ!?」

「今の私じゃ…これしか、出来ない、から…」

切実なユキノの声色にジンは無言で煙幕を張る。
イスラフェルは煙幕の中に飛び込み剣を振りながら煙幕を消しているジャッジに抱きついた。

「今だ!フェルごと斬れ!」

『アタックファンクション、ライトニングランス!』

『アタックファンクション、インパクトカイザー!』

動きが止まったジャッジに二機の必殺ファンクションが直撃した。激しい爆発音をあげ粉々になるジャッジとイスラフェル。
悲痛な絶叫の後倒れていく灰原の体をユキノは受け止めた。

「ごめん、ね…ユウヤ…」

「っ…」

「もう一人じゃないから…」

気絶した灰原に続くように意識を手放したユキノ。
バン達は慌ててユキノ達に駆け寄った。
大会が一時中断されユウヤとユキノは担架で、運ばれていった。そんな二人をジンは心配そうに見ていた。
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