声を届けて
□第11話
1ページ/4ページ
「ユキノはこれからどうするの?」
「父さんたちがイノベーターから逃げるために色んなところに別荘を作っておいてくれたみたいだからそこら辺にいるよ、場所もここから結構近いから学校にも行けるしね」
「そっか、なんかあったらうちよれよ?母さんはいつでも大歓迎だから!!」
「分かった、気遣いありがとな」
「その会話をしたのが三日前なのよね…?なのに………なんでいないのよ!!!!」
海道邸の事件から三日経った。Blue Catsがイノベーターの監視から逃れるために閉店し拓也達がシーカー再建のために駆け回っている中バン達はアルテミスのために特訓をしていた。ただユキノを除いて…
「なんで!?おかしいじゃない!その別荘とやらは近くにあるから学校にも普通に通えるのよね?なのになんでこの三日間一度も来ないのよ!!ねぇバン!ユキノは言ったのよね?三日前にはっきりとさっきの会話をしたのよね?したんでしょ!!?」
「あ、アミ、落ち着いて…」
この三日間ユキノが一度も学校に来ていないのは事実だった。そのことでアミが苛立っているのもまた事実で…
「そうそう、またひょこっと出てくるって、なんせユキノだぜ?さすがに何かあれば連絡よこすだろ」
「もう……今度会ったらただじゃおかないんだから」
苛立つ気持ちの裏側で心配している気持ちもまた事実だった。
アミは三人の中で唯一真白夫妻の事件の詳細を知っている人物、故にユキノを心配する気持ちは人一倍強かった。
そんなことも知らずにユキノはレックスに会うために廃工場に来ていた。
「お待たせ、レックス」
「その格好のお前に会えるとは光栄だな『箱庭の天使』」
背中に翼が描かれている黒のロングコートを身に纏いフードを深々と被り顔を見ることはできない。ユキノが『箱庭の天使』を名乗る時の服装だった。
「お前から俺を呼び出すなんて珍しいな、どうかしたか?」
「頼みがある、私をアルテミスに出させてほしい」
ユキノの頼みにレックスは驚いた。だがフードからかろうじて見えた瞳に彼女が本気と言うことを感じとった。
「いいのか、バン達に正体がバレる事になるぞ」
「構わないさ、そろそろ潮時だしね」
「分かった、こちらの方でエントリーはしておこう」
「ありがとう、話はこれだけ何だけど、呼び出して悪かったね」
「気にするな、アルテミスで戦えることを期待しているよ」
「こちらこそ」
ユキノはレックスに背を向け歩きだす。彼女の背中を見ながら怪しく笑っていた。
廃工場を出たユキノはフードを外し河川敷に座っていた。
「アルテミスか…バン達怒るかなー」
少し想像しては浮かぶのは主にアミが怒る顔でユキノは身震いした。
「まぁ、なんとかなるっしょ」
「お前は…」
背後から声がした。振り返ればそこには怪訝そうな表情を浮かべている仙道ダイキの姿があった。
「あ、仙道」
「お前こんなところで何してる…」
仙道が驚くのは無理もない、なんせ今の時刻は午後2時、健全な学生なら学校に行っている筈の時間帯だからだ。
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」
「質問しているのは俺だ」
お互い睨み合いながらしばらく硬直状態が続く。
その状況に耐えられなくなり口を開いたのは仙道だった。
「お前、何かあったのか?」
「え?」
「前会った時みたいな馬鹿な顔してない」
「馬鹿ってお前失礼だな!!……何も無いって言えば嘘になるな」
膝を抱え空を見たユキノは何かを考えているような顔でまるで我此処に有らず、と言うような感じでいた。それが気に入らなかったのか仙道がユキノの鼻を摘んだ。
「んぎゃっ!!」
「俺と話してるのに意識別の所に飛ばすなんてナメてるとしか考えられないね」
「離せこの俺様!!」
ユキノの言葉通り仙道はパッと手を離すと彼女は女子らしからぬ声を上げながら後ろに倒れた。
「何すんだよいきなり…」
「ムカつくんだよ、初対面でいきなり馬鹿丸出しだった奴が変になんか考え込んでんの」
「っ…」
ここまではっきり言われれば流石のユキノも俯いた。まさかここまで落ち込んでしまうとは思わなかったのか仙道は表情には出さないものの少し驚いていた。
「馬鹿なら馬鹿らしい態度ってのとってろよ、じゃないと気持ち悪くて仕方ない、まさに不快だね」
励ましてくれてるんだかは定かではないがきっと元気づけてくれているのだろうと自己解釈をしたユキノは小さく笑みを浮かべながら立ち上がった。
「馬鹿馬鹿うっさいんだよ、バーカ」
「なっ!?お前っ」
「不良がらしくもないこと言ってんなよ!お前はただLBXの事考えてればいいんだよ」
「はぁ?いきなり何を…」
「どうせ、負けず嫌いそうなお前の事だからアルテミス出るんだろ?なら期待してるぜ!」
「じゃっ」と手を振り歩き出したユキノをみて仙道は一度は呆気にとられたものの直ぐに我に返ればまさかと目を丸くした。
「まさか、お前アルテミスに…!?」
「…私の運命は大アルカナの7番ってとこかな、負けないよ、仙道ダイキ流石の魔術師も天使には勝てないだろうしね」
フード被りながら不敵な笑みを浮かべ振り返った彼女は自信満々に言い放ち走り去った。
「大アルカナの7番戦車のカード…勝者か」
愛用のタロットなら7番のカードを取った。正位置で勝利を意味するそれを見て仙道はニヤッと笑みを浮かべた。
「…ユキノって言ってたな」
「今度会ったらぶっつぶしてやる」と呟く仙道の顔はどこか楽しそうだった。