百神
□鞘入り劒と抜き身の刀
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「こっち……近い………?」
若干たどたどしい口調になりながら、懸命に雪深い森の中心部を目指す少女。現在の守護神の用事をこなしていることを知っているのは少女だけだろう。
彼女はかれこれ一時間程度、この場所に留まっている。凍死こそしないものの、やや足を動かすのが億劫だ。凍傷の危険は十二分にある。
「諦めるのは、癪ですもの」
それでも進むのは、ひとえに彼女が負けず嫌いで、守護神が常識から逸脱しているからに他ならない。
「ああでも、キイチゴ盛り合わせよりはマシだったのかもしれませんね」
現在遂行中のクエスト……『オレからのお願いねー』
なんとも軽い調子でキイチゴ10個お願いと言われてしまったので、とりあえず他の神や、特に少年には何も言わずに出てきた。
彼は過保護だから絶対止められるに決まってる。
「そこまで心配されるほど、わたしは弱いのでしょうか」
だとしたら鍛錬を怠っている証拠か。帰ったら誰かに相手してもらおうと一人呟き、息を吐いた瞬間、視界の端を黄色い影がかすめた。
「トレント。……そちらから出てきてくださるとは、都合がいい」
何時の間に妖精の遊び場まで来たのか。そんなことは些細な疑問だった。
レザーアーマーがきちんとはまっているのを確認した上で、バスターソードを構える。一騎当千の心づもりで、彼女はトレントに向かって行った。
「うーん……なんだか倒しすぎましたかね?」
ばったばったと向かってくるモンスターをなぎ倒すこと数分。大量のトレントと共にいくつかのキイチゴが落ちていた。
さすがにやりすぎたかと眉を寄せたが、モンスターの心配をしても仕方ない。というより心配する義理も無い。
「ひいふうみい……ななつか。在庫と合わせればなんとか……よし。後はロキ様のもとへ帰るだけですね」
キイチゴを拾い集めて籠の中に転がすと、少女は上機嫌でロキの元へと急ぐのだった。
「ヒャハハハ♪ほーんとに戻って来ちゃったー」
「なにを馬鹿げたことを仰るのですか?帰らないとキイチゴをお渡しできないじゃないですか」
帰って早々のロキの一言に、少女は片眉を上げて答える。
無意識下での辛辣な発言は、彼女の本音か。しれっとした態度ではあるし、もちろん本人には悪気がないため、余計にタチが悪いのだが。
「はい、ロキ様。頼まれていたキイチゴって早いですね!? まだ言い終わってないっていうか洗いはしたけどヘタついたまんまですよ?」
「んー? なんか言ったー?」
「もう一度申し上げましょうか?」
はあ、と溜息を吐いて少女は辺りを見回した。
「……ロキ様、一つだけお伺いしてもよろしいですね」
「アンタ人のこと言えないからな。オレの意志はナシか」
「ロキ様の神域のまわりだけ、生気が少ないのはなぜですか?」
単刀直入に、少女は言った。もとより前置きなどというものは彼女にとって邪魔なものに過ぎない。
そんな、ある意味ずけずけとした質問に、だからロキは一瞬怯んだ。