□ヘビーレイン
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くしゅんっ
「ほら、霰。風邪引くから中で待ってようぜ?」
「ぃや…!」

ふるふると首を横に振る霰。
…俺と霰がいるのは、宿舎の玄関の外。そこにはまだ数人が残っている。
屋根はあるものの風に乗った雨が体を濡らし、吹き付けるそれが濡れた体を冷やす。

「にぃには中にいていいよ。僕はここで焔を待つ」
「そうは言ってもな…」
「僕は、焔が帰ってくるまで中には入らない。焔だって雨に濡れてるもん」

柱の横にお山座り(体育座り)をした霰はそう言うと、また小さくくしゃみをした。
眼鏡が濡れることが嫌いで小雨が降るたびに眼鏡を外す霰が、土砂降りの雨の中眼鏡をかけたまま暗闇を見つめる。

…こんなに強情な霰を見たのは初めてだ。そんなにも焔の事が大切らしい。

「…なら俺も待ってる」
「!」
「土門が帰ってきてねぇんだ。あいつが帰ってくるまで俺も中には入らない」
「にぃに… ありがとう」

張り詰めたままだった霰の表情が、少しだけ綻んだ。
隣に座って霰の頭を撫でてやると、不意に頭上からタオルが降ってきた。

「お前ら、どうせ中に入らねぇつもりなんだろ?」
「跡部…」
「また濡れるだろうがせめて髪くらいは拭いとけ」

そう言った跡部も、タオルを肩にかけたまま隣の柱にもたれ掛かる。
周りを見渡すと、俺と霰、跡部以外は皆中に入っていた。

「奴らなら中に入れた。風邪を引かれても困るからな。出来れば霰も中に入れと言いたいんだが…」
「嫌だよ。」
「この調子だ。だから俺様も待ってやる」

ぶっきらぼうに言い放つ跡部。いつも横暴で自分大好きな奴だと思ってたが、やっぱり仲間思いの奴だった。

「? どうした、綱海」
へへっ なんでもねぇよ」


ヘビーレイン
(待ち人、来たらず)
 

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