□傷の代償
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あの時、

『大阪弁やないなんて気持ち悪いわ、お前』

初めての場所に緊張していた僕に降り注いだ辛辣な言葉達。この時期、小学3年4年はマセ始めていて、一番面倒くさい反抗期の時期だ。

これから先は言わずもがなだ。背中には焼けただれた痕がまだある。忘れたい過去。

ふと、トリップ前の記憶がコノトリップ後の記憶と合致する。まぁ年齢は違うけど、内容は全く同じだ。イヤなくらいに。

日記帳には、その日の出来事もあったが、僕の寂しさと辛さの捌け口な日記だ。


『もうイヤだ』

『苦しい』

『行きたくない』

『ちー達に会いたい』

『お姉様に会いたい』






『僕は、いらない子?』


そうつらつらと書き連ねていた。

覚えたての漢字。
100点の答案用紙。
授業参観の案内書。

全部全部、きれいにファイリングされてアルバムと一緒にあった。

これはきっと右京がやってくれたのだろう。右京は執事であり、姉であり、母のような人だった。僕が授業参観の案内書を彼女に渡さなくても、彼女は燕尾服ではなく当たり障りのない服を着て、授業参観に必ず来てくれた。

「…懐かしい…」

そして彼女は写真をいつもデジカメで撮って、綺麗にアルバムにしてくれた。雅治や桔平、ちー達とピクニックしたり、猫と戯れたり、そんなありきたりでも幸せな小さい頃の写真や、唯一あの時に一緒にいてくれたユウジとの写真。

そして謙也や侑士との最後の2年間の写真。

みんなみんな、コッチの僕は幸せだったんだと、他人ごとの様に呟く。

最近考えたことなのだが、この世界はパラレルワールドなのだと思う。コッチの僕と、現実世界の僕が入れ替わったのではないかと。

だからいつか、この日には終わりが来る。これは確定的な運命な気がする。

「…ごめんね、コチラの僕」

そう、呟いて、僕はそのままダンボールを元に戻した。これは、忘れちゃいけない。忘れられないんだ。

「お嬢様?」
「あ、右京?」
「何を見てられたのですか?」
「ん?コレだよ。懐かしいよね。」
「…そうですね、あの頃は小さいながらも幸せでした。」
「そうだね」
「未だに忘れられませんよ、私は」
「…うん、右京、」
「はい。」
「…霰ねぇにすべてを話そうかと思うの、今から」
「え?」
「…ついて来て、くれるね?」
「…はぁ、貴女は私が止めても話すのでしょう?もちろんですよ、貴女のためなら例え地獄でも着いていきますよ。」
「うん、ありがと」

僕は立ち上がり、片付け最中の霰ねぇの元へ向かう。

「霰ねぇ、左京」
「ん?焔?」
「焔お嬢様?」
「ちょっとだけ、お話したいんだけどいいかな?」

僕が言うと、彼女と左京はキョトンとして、頷いてくれた。






傷の代償
(これから話すことは)
(僕、焔の昔々の思い出話)

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