頂き物

□ばーか。
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シズちゃんと別れた。
つい、三日前くらいに。



夏の暑い日々が少しずつ消え去り、冷たい風が吹き始めた今日この頃。
俺たちが別れたきっかけは、小さな勘違いだった。

俺が取引をしている、粟楠会の四木さんと関係を持っているという根も葉もない噂。

どこからかは知らないが、そんな噂をシズちゃんが聞いたらしい。それでその事を追及されて口喧嘩。どんなに違うと否定してもシズちゃんは信じてくれなかった。

それで勢いで言ってしまった。


『なんで恋人がこんなに必死に言ってるのに信じてくれないの!?もう大嫌い!!』

『シズちゃんとなんか別れてやる!!』




どうしても言ってはいけないことだと、どこかでわかっていたはずなのに。
言ってしまった。


後悔していないといえば嘘になる。
でも、今更戻るなんてことはできない。



もう戻れない。
そんな暗い気持ちが俺の心を沈ませていた。

そして今日、俺には何よりも憂鬱な仕事がある。
誰にでも予想がつくであろう、池袋での大事な取引。


シズちゃんに見つかってしまったらどうしよう。
以前のように追い掛けられるのだろうか。それとも、それもなくただ見て見ぬ振りをされるのだろうか。
どちらにしても辛い事に変わりはない。



…なるべく見つからないように行って、早く帰ってこよう。

そう俺は心の内で呟くと、冷たい風が吹く池袋の街へと足を運んだ。





「さむ…。」

なんとか無事に取引を終えた俺は建物を出て少しでも早く池袋を出るために早足で歩を進める。

秋とはいえ、夏に比べていきなり涼しくなったせいか、風が身にしみる。
あともう一つ、前まであった一人の温もりがなくなっていたのも、そう感じた原因だったのかもしれないが。

黒いファーコートを少し引っ張って寒さと孤独を紛らわせようとした。




「おい。」



不意に後ろから掛けられた声。
後ろに誰がいるのか、俺には予想がついていた。
だからこそ、振り向いてはいけないと頭のどこかで叫んでいる。

でも、
それでも、
振り返らずには、いられなかった。



唇を噛んで後ろを振り向く。
そして、やはりそこに居たのは今も愛している恋人だった人。


「…シズちゃん…」






「なんで、声なんて掛けたの。」

「…ちゃんと、あの時のこと確認したかったから。」



自分の口から出る、きつく冷たい声。こんなこと、言いたいんじゃないのに。
素直になれない自分に苛立ちを覚えつつ、次の言葉を口にする。


「…今更、でしょ。」

「あの時は俺も頭に血がのぼってて、ちゃんと手前の話も聞いてやれなかった。そのことには、ちゃんと謝る。悪かった。」

「…。」



なんなんだ。
こんな、あっさり許していいのか、少し迷った。
でも、とりあえずちゃんと話をすることを優先しようと思った俺は簡潔に噂はなんの根拠もない嘘だということを説明した。



「…そうか。」

「話はおしまい。これで満足?」

「一つだけ頼みがある。」

「…なにさ。」




「もう一度、俺の恋人になってくれないか。」



…は?
何言ってるんだこの男は。
自分の勘違いが原因で一回別れて、それでまた恋人になってほしい?
何を、言ってるんだよ。

そう心の中には疑問がたくさん浮かぶのに。



顔に熱が集まっていくのは、どうしてなんだろう。



「ふざけ…ないで、今更そんなこと言ったって、もう遅い、よ。俺はもう、シズちゃんのことなんか…っ」


言葉を発している内に、涙が出そうになって声も上ずる。
恥ずかしい、恥ずかしいのに嬉しい、変な感情が脳内を駆け巡る。

次の言葉が出ない俺を温かい大きい体が包み込む。



「…ごめんな、臨也。」


懐かしい温もり。
もう一人じゃない、そう思うと心の中が満たされていった。



「…ばか。」


それが涙を堪えながら最後に言った、強がりの一言だった。





(本当ばかだよ。)
(本当…、)
(…大好き。)















*
花火様リクエストの喧嘩→甘小説です!
あれ…希望に添えられてない感が…!!←
すみません、スランプというか疲れている中、これでも必死に書いたつもりなんです…←
返品可です!リクエストありがとうございました!!

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