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□好きでいることに決めました
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初恋は実らない。
こんなこと誰が言ったかなんて知らない。
けれどいつの間にか、人々の頭にそうインプットされていた。
迷信なんて信じない。
そんな風に生きてきたこの13年間だけど。
「ごめん、俺、誰かと付き合うとか…考えたことないから」
凍夜瑞希(13)、雷門中二年サッカー部マネージャー。
人生初の、失恋。
「そっ…か、そうだよね、ごめんね」
お相手は、我らがサッカー部のキャプテン・神童拓人くん。
強くてカッコよくて、でもたまに見せる弱さがなんとも言えず母性本能をくすぐって。
クールで、笑顔とか泣き顔とか滅多に見せないけれど、実はすごく熱い人で、そんなギャップがたまらなくて……
ああもうとにかく、私の言葉なんかじゃ語りきれないほどに、素敵な人。
まあそんな人に告白なんて、無謀にも程があるわけでございまして。
現に今、すっぱりきっぱりフラレております。
「…えっと…あの、その…」
「い、いいのいいの!分かってたし!それより、引き止めてごめんね!」
「……ごめん」
…ごめんって、二回も言わなくても。
まあ確かに分かってたし、無謀だし。
でも、悲しくないって言ったら、嘘になる。
分かってても、辛いものは辛い。
「…あ、あの!先に、練習行ってて!私、ちょっと教室に忘れ物しちゃったから!」
「え、あ……分かった…」
ああ、駄目だよそんな顔しちゃ。
お願い、今、突き放してくれないと。
また、あなたを好きになる。
好きで好きで、たまらなくなる。
「じゃあ、また後で!」
「…ああ」
…明るく振る舞うことがこんなに疲れることだなんて、初めて知った。
空気クラッシャーで有名で、いつも明るいって言われてる私。
その期待と二つ名に応えるために、いつも明るい女の子でいようとしたり、空気読まずに突き進んだりしてたけど。
ごめん、今だけは。
明るい女の子でなんて、いられそうもない。
私自身が思ってたよりも。
彼のこと、大好きだったみたいだから。
涙を拭って赤くなった目をどうにか冷やし、私は部室棟へ…サッカー棟へと向かう。
気まずいけど、仕方ない。
仕事なんだから。
…そういえば、茜や水鳥以外のマネージャーの友達が、みんな止めていったとき。
私がサッカー部に残った理由も、神童くんだった。
自分だって怖いはずなのに、逃げ出したいはずなのに、みんなを引き止めたいはずなのに。
ただ『キャプテン』として、震える手を必死に抑えて笑顔を見せた神童くんに、どうしようもなく苦しくなって。
彼の抱えているものを、少しでも分けてくれたらなって。一緒に背負えたらな…って。
確か、そんなこと思ってた気がする。
だから今の私があるのも、全部全部、神童くんのおかげで。
誰かを好きになる気持ちを教えてくれたのも、神童くんで。
(…ああ、そっか)
分かってたんだ。
元々、こんなところで終われるはずのない恋なんだって。
そういえば、もうひとつ。
図々しさだけは天下一品って、よく言われてたっけ。
私は、全速力で走り出す。
みんなが…神童くんがいるであろうグラウンドへ、一直線に。
翻るスカートなんて気にしていられない。
今すぐ、伝えたいから。
「神童くん!!」
たどり着いた先で、空気クラッシャーの名の通り、そして声の限り、私は叫んだ。
あなたを好きでいることに決めました。
だからせめて、伝えさせて。