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□翻弄。
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「んっ……はあっ、んう……っ」


道のど真ん中で濃厚なキス。彼がこんなに大胆になるなんて珍しい。

舌を捩じ込まれ、口内を掻き回され、ずっと好き勝手にされるのが気に入らない。
少しでも抵抗しようと舌を必死に絡ませるが、虚しくもすぐに押し戻されてしまった。


「…っ、ん……瑞希、……っ」


上擦った甘い声で名前を呼ばれると、嫌でも肩が跳ね上がってしまう。

いつもいつも思うが、この美声は反則だ。
こんな声で耳元で囁かれでもしようものなら、多分私は腰が抜けるだろうな。


「はっ、ん…拓、……んんっ」


息が苦しくなってきた。けれど拓人はそんな私に気付いていながらも、気にする風もなくキスを続けてくる。


やっと離してくれたかと思ったら、今度はぎゅっと抱きしめられた。


「っ、拓人、どうしたの?今日、おかしいよ…?」
「……南沢さんと、何してたんだ」
「え?」


苛立ったような口調でそう言い放ち、腕の力を強くして、彼は更にきつく私を抱き寄せる。


「…南沢先輩?別に、何も…」
「…それなら、どうして…」


ドクン、と胸騒ぎがした。
瞬間的に冷や汗が背筋を伝っていく。


「…キスなんて、してたんだ」


拓人の言葉に、身体が凍りついた。
冷めた瞳が、たまらなく不安を掻き立てる。


「…キ、キスって、そんなわけ……」


咄嗟に言い訳を考えるけれど、焦りすぎて言葉が出てこない。


…キスをしたのは、事実だから。

けれど、あれは絶対に先輩が悪い。断言できる。…なのに、何も言えない。


「…好きだ、瑞希」


吐息混じりのその声は私の鼓膜を犯し、じわじわと身体の芯を熱くさせた。

と同時に、私に非はないとはいえ、罪悪感が胸の奥から沸いてくる。


「…私も好きだよ、拓人」
「っ…なら、どうして…!」
「それは……っ」


…不可抗力だったんだ。無理矢理壁に押し付けられて身動きが出来ない状態で迫られて…抵抗したけど、力の差は歴然だった。

私には何の感情もなかった。一方的に感情をぶつけられただけ。だって私には、拓人がいる。…いや、拓人しか、いない。

…正直にそう言えば、解決する話なのに。


言葉より先に、涙が溢れてきてしまった。


「ち…がうっ、の…!ごめっ、ごめんなさ…っ」


本当のことを言わなければならないと、分かっているのに。

拓人に嫌われるかもしれないと思うと、涙が止まらなかった。


「………すまない」


ふと腕の力が緩くなる。
私をゆっくりと解放して、彼は左手で自分の顔を覆った。そのせいで、表情が読み取れない。


「…っ、拓人……」


お願いだから。
…嫌いに、ならないで…!


「……ごめん。…分かってるんだ」
「えっ?」


意外な言葉に、私は俯かせかけていた顔を上げる。そこには、申し訳なさそうに視線を反らす、いつもと変わらない優しい表情の拓人。


「…あの後、瑞希が去っていった後。…南沢さんに、『ぼんやりしてると、凍夜は俺が貰うから』って言われて…」
「え……」
「……いつか瑞希が、俺の元から離れて行くんじゃないかと思うと、不安で仕方なくて。……ごめん。…子供みたいだ」


…じゃあ、最初から知ってて。
こんな質問をしたということは。


「…嫉妬してたってわけ?」
「う……そうかもしれない」


恥ずかしげに首を掻く拓人。ほんのり赤いその頬が、今の彼の心情を表していた。

そんな愛しい少年を見ていると、一気に身体の力が抜けた。


「瑞希!?」
「…馬鹿。嫌われたかと、思ったじゃない」
「あ…わ、悪い……」


まったく、不器用なことこの上ない彼氏だ。
それならそうと早く言ってくれれば、泣き顔なんて見られなくてすんだのに。


「…馬鹿、ばーか」
「…言い過ぎじゃないか?」
「私が、拓人以外の人を好きになるわけないじゃない」


膨れっ面のままそっぽを向いてそう言ってやると、拓人は顔を真っ赤にして、嬉しそうに微笑んだ。










恋心に翻弄されっぱなし。



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キスシーンが書きたかっただけだからストーリーがよく分からない

とりあえず南沢先輩憎まれ役でごめん。

 
 

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