家主さん

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「ね、今度、狩屋の家に遊びに行ってもいい?」


…あーうん、いつかは言われると思った。思ったけど。

まさかこんなに早いなんて。


「あ…いや、俺ん家は…」
「あっ俺おつかい頼まれてたんだった!ごめん狩屋、葵、信助!また明日!」


そう言って早足に駆けていく天馬くんに、タイミング図ったんじゃないだろうなと問いかけたくなる。


「じゃあね狩屋、また明日」
「えっ、あっ、うん、また…明日」


葵ちゃんも信助くんも、ここからは別々の道。


ああ…表情を窺った限り、家には二人も一緒に付いて来る気だろうな。

…まあ、もちろん断るけど。


(…高坂さんはああ言うけどさ、俺だって遠慮くらいするよ)


仮にも居候の身。

これ以上、彼女に負担はかけたくない。


…ああ、なんて俺らしくない言葉。


天馬くんたちには悪いけど、また今度って言っておこう。

…今度、なんて、いつそんな機会が訪れるかも分からないけど。


軽く息をついて、ゆっくり歩き出す。


けど、病院前で、すぐにその足は止まった。


(…あの人、)


…あの後ろ姿、間違いない。

高坂さんだ。

けど、どうしてこんなところに?


俺がじっとその後ろ姿を見つめていると、彼女はきょろきょろと辺りを見回し始める。

…一体、どうしたというのだ。


誰かとの待ち合わせなら、わざわざ病院の前にしなくても……


「愛菜さん!」


…その声を聞いたとたん、ぱっと表情を明るくさせる高坂さん。

彼女が待っていたのが男だということにまず驚いたが、それ以上に、この声には物凄く聞き覚えがあった。

いやこれ、俺の空耳じゃなきゃ、絶対に。


「京介くん!遅かったね、部活?」


特徴的な髪型と改造制服、それは俺のよく知る剣城くんそのものだった。


(え、なんで高坂さんが剣城くんと…)


いや別に気になるわけじゃないけど?高坂さんの周囲の人間関係なんて知ったこっちゃないけど?


「すみません…」
「や、いーよ。実は私もちょっと遅れて今来たところ。それじゃ、行こっか」
「はい」


え、あんなに笑ってる剣城くん初めて見た。
なんか心なしか高坂さんの声もいつもより優しげだし。
なんだあの二人、どういう関係なんだよ?


一人葛藤する俺の目の前から消えて、そのまま病院内へ入っていく二人。

何?なんで病院?誰かのお見舞い?


……ごめんさっきの嘘、すごい気になる。二人の関係とか関係とか関係とか。


しかもなんで名前呼びなわけ、高坂さんはともかく剣城くんはなんで彼女のこと名前で呼んでるわけ。


(え、何もしかして、つ、付き合ってる…とか……?)


いやいやいや、年の差考えろよ。
あの人確か18だから5歳差だぞ。いやまあそんなに厚い壁じゃないけどさ。

いやでもないないない、高坂さんはともかく剣城くんに年上の彼女とかありえない。


……あーいや気になる、すっごい気になる。

どうしたものか。


…尾行するか?いや見付かったときに言い訳ができないな。

いや、偶然を装って…って、俺は何の用があって病院内でうろちょろしてるんだよ。


…さあ、どうしたものか。


気になるのに、二人を追うことを、高坂さんを優位に立たせたくないという心が邪魔をする。


いや…もう、後から聞くか?

今追わなくたって、彼女なら、病院にいた理由も、剣城くんと一緒だった理由も教えてくれるだろう。

それなら、偶然見付けたって言い訳も通る。


(…よし、帰るか)


気になるけど、今は一時撤退だ。

後から高坂さんに事情を聞いて、目一杯剣城くんをからかうネタにしよう。


そう心に決めて、俺は家に向かって、ゆっくりと足を進めた。



 

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