女優

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…これほどまでに登校拒否をしたい朝が、今まであっただろうか。

頭を支配するのはあの嫌らしい笑みの猫被り女優。

ああ思い出しただけで腹がたつ…あのサディスト野郎。

これからは学校に行く度にアイツに会うことになるのかと思うと、イラつきすぎてどうにかなりそうだ。


俺はひとつ深いため息をついて、重い身体を起こす。

…うだうだ言っても仕方ない。
会いたくないなら会わなければいいだけの話なのだ。

仮にも有名女優なのだから、迂闊に単独行動など出来ないはず。

そうだ、簡単に会いに来られるわけもないのだ。


よし、と自分に言い聞かせ、俺は部屋を後にした。











「ああっ剣城!!キャプテンっ、剣城来ましたよ!!」


部室棟に入ってすぐ、松風に腕を引かれ大声を出されるという必要以上の歓迎を受ける。

奥から焦った様子のキャプテンまで出てきて、いよいよ嫌な予感が最高潮。


「剣城、お前にお客さんなんだが…」
「……客…ですか?」


…このキャプテンたちの焦り様。

まさか。


「あー、いたいた、剣城くーん」


…的中。

…頭痛がしてきた。


「…なんで、お前が……っ」
「えー、昨日言ったじゃない。一ヶ月は撮影期間だって」
「そうじゃない。仮にも有名人のお前が、」
「ちょ、ちょっと剣城!こっち来て!」
「…話の途中だ松風」
「いいから来てよ!!水無月さんちょっと剣城借りますね!!」
「はいはーい」


話が終わってないというのに、…というかあの女を残して大丈夫か。

少しだけ振り返ると、水無月は何事もなかったかの様にキャプテンと話していた。

…キャプテンも気の毒に。


二人から見えない位置に来ると、いきなり肩を掴まれる。


「…なんだ」
「剣城!!あの『水無月椿』と知り合いなの!?」


…こいつもか。

芸能人なんかに興味あるようなヤツじゃないと油断していた。


「…別に」
「えっでも昨日だって剣城を探しに来たんだよ!?知り合いなんでしょ!?」


…ああ、もう、面倒だ。

大体それもこれも、あいつが余計なことをするから…っ!


「…何もねえっつってんだろ」
「嘘!」
「嘘じゃねえ」
「うーそー!」
「っだから、」

「ひっどいなぁー剣城くん。あんなコトまでしておいて」


突如聞こえた声に、さっと血の気が引く。

この…人の神経を逆撫でするような声音。

…これは完全に、サディストモードだ。


「あ…あんなコト…?」
「おいコラ猫被り野郎!適当なこと言うんじゃねえよ!」
「あら…ふふっ、剣城くんの照れ屋さん。そんなコトもこんなコトもしちゃった仲なのに」
「つ、剣城…お前…!」


松風のものじゃない声に驚いて背後を振り返ると、そこにはいつの間に来ていたのか、キャプテンや霧野先輩、そして狩屋の姿。

また面倒臭いときに面倒臭い奴が…!


「っ、水無月!いい加減に…!!」


しろ、と、言おうとした口に、柔らかいものが当たる。

目の前には、憎たらしい程に整った水無月の顔。


「…わーお」


沈黙を破った狩屋のその声に俺は我に返り、慌てて後退った。


二度目の、キス。


「っ、てめえ…!!」
「…ふふっ、ごめんね私…もう行かなきゃ。…また放課後、ね?」


もう二度と戻って来るな馬鹿女と叫ぼうとしたのだが、背中に突き刺さっていた視線がやけに痛いことに気付き、恐る恐る振り返る。


「…ダイタンだね、剣城くん?」
「なっ、あ、あれはあの女が勝手に…っ!!」
「つ、剣城…その、今回は仕方ないとして、次から…そういうことは、もう少し場所を選んでだな…」
「っだから!違います!!」


今のはどう見たってアイツが一方的に仕掛けて来てただろ!!さも俺のせい、みたいな言い方するな!!


「まあまあ、落ち着けよ。可愛い彼女じゃないか」
「はぁっ!?違っ、彼女じゃ…!!」
「今度『イロイロ』聞かせてよね、剣城!」
「……だから、違うって、言ってるだろうが!!!」


どいつもこいつも、少しは人の話を聞け!!


今日何度目かも分からないため息を、俺はおもいっきり吐き出した。



 

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