ロリ転校生
□08
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「おはよーございますっ!」
まだ俺と霧野の二人しかいない部室に、甲高い子供の声が響く。
相変わらず反応をしてくれないらしい自動ドアを無理矢理に手動でこじ開け、城ヶ崎さんは元気よく頭を下げた。
よくもまあドアが壊れないものだ。
「おはよう、城ヶ崎」
「あっ、おはよう、霧野くん!」
知り合って二日目だというのにもう既に仲の良い彼女と霧野は、並んでいるとやはり兄妹のようである。
なんて二人を見つめながら無駄なことを考えていると、ふと城ヶ崎さんと目が合った。
「おはよー、神童くん」
「あ、ああ…おはよう」
にぱっと効果音のつきそうなくらい明るく笑うものだから、戸惑ってしまう。
嫌いだと言ったり好きだと言ったり怒ってばかりだったり笑顔を向けたりと、忙しい人である。
くるくる変わる表情は、見ていて飽きない。
「あれ、城ヶ崎、制服は?」
「え…あ、制服?制服ね、あはっ、あはは…注文は、してたんだけどね……」
「?手違いで届かなかった、とか?」
「え?あ、うん、うん、そう、それ……」
いきなり挙動不審になる城ヶ崎さんに、俺たちは揃って首を傾ける。
「そっその話はもういいから!あっ私、グラウンドの整備してくるね!」
何やら焦って部室を出て行った幼女に俺らの疑問は募るばかり。
制服くらい、店に買いに行けば――
「あ」
「ん?」
「そうか、サイズを間違えて注文したんだな」
「ああ…そういうことか…」
どうせ城ヶ崎さんのことだから、自分の身長をサバ読みして『普通サイズ』を買ったんだろう。
無理をして背伸びをしようとするからこんなことになるんだ。
彼女に哀れみの視線を向けていると、霧野が俺に向かって苦笑する。
「…なんだ」
「いや、そういえばお前、小さくてふわふわしたもの好きだったなって」
「それはまあ…って、い、いきなりどうした」
危ない、突拍子もない会話についつい本音を滑らせるところだった。
まあ、長年一緒の幼馴染みに何を今更って話だが。
「小さいもんな」
「は?」
「弄りたくなるよなぁ…」
「だから何が…」
「城ヶ崎。好きな子ほど苛めたいってやつだろ?」
「なっ!?」
慣れない恋愛絡みの話に顔が熱くなっていく。
というか好きな子でもないし弄っているわけでもないのにどうしてそんな誤解を受けるんだ。
「どこをどう見たらっ、」
「異様に突っ掛かるところ、城ヶ崎にだけSなところ、無意識に目で追ってるところ、そうやって顔を赤くするところ」
「っ!!」
図星。
ここまで的確に答えられると思っていなかったので、言葉につまってしまう。
「べ、別に好きだとか、」
「そうやって視線を反らすところ。珍しく噛むところ」
尋問者か。
どれだけ俺を追いつめれば気が済むんだ。
大体まだ会って二日だというのに、恋愛感情なんてあるはずがない。
「そ、それはお前が普段してこない質問を…!」
「好みのタイプは?って聞いても平然とセミロングとか答えるやつが…ああそういえば城ヶ崎もセミ…」
「なっなななななんだそれっ!!いつ俺がそんなこと…!!」
「え、一週間くらい前」
平然と答える彼に開いた口が塞がらない。どうやら嘘ではないらしい。
だが全く覚えにない…もしかしてまた口を滑らせたのだろうか。
あと別に髪の長さとかそんなもの、気にしたこともないのだが。
何を心にもないこと言ってるんだ俺。
「ま、お前がそのつもりなら応援するからさ」
「だから違うって言ってるだろう!誰があんな小学生っ!!」
「お前だって二年前まで小学生だったじゃないか!」
「二年も前だ、あんな現在進行形の子供を俺が好きになるはずない!!」
何の言い合いだと自分自身突っ込みたくもなるし城ヶ崎さんが聞いていたら飛び蹴りが直撃しただろうが、断じて俺は彼女に好意なんか寄せていない。
それだけははっきりとした事実だと、俺の中では捉えている。…はず。
「はいはい、そういうことにしておいてやるよ」
にやにやしながらそう言う霧野が嫌に憎たらしかったので、とりあえず一発…瘤がひとつできるくらいには殴っておいた。