ロリ転校生

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「ふわああ!美味しそう!」


俺の隣で肉まんを持って目を輝かせる城ヶ崎さん。

霧野が余計なことを言うから、今日は彼女と一緒に帰ることになってしまった。


「学校帰りに買い食いなんてトラちゃんと一回したっきりだよ…!」
「トラ…?」
「あれ、知り合いでしょ?トラちゃんがよく神童くんの話してくれてたもん」


…何だこの急展開。誰だトラちゃんって。
俺にそんな名前の知り合いはいない。

というより、それが今適当に思い付いた設定でなくば、彼女は元々俺のことを知っていたということになる。

『あの有名な』というのは、そういう意味だったのだろうか。


「…本名を言ってくれ」
「あ、そうだね。貴志部大河。ほら、木戸川清修の!」
「貴志部が?」


彼女の口から発されたのは、予想外の人物の名前。

まさか彼と城ヶ崎さんが知り合いだったとは。


「…珍しい繋がりもあったものだな」
「え?いや、私、木戸川清修から来たんだよ?」
「は?」


なんだそれは、初耳だ。

驚いて彼女を見ると、肉まんを頬張りながら幸せそうな顔をしていた。

…リスだ。


「あっ今失礼なこと思ったでしょ」
「ああ、まあ…リスみたいだな、と…」
「ちょっ…ほんと神童くんって嘘つけないよね!!」


あれ、あまり怒られなかった。

こんなことを言ったら小言を言われるものだと思っていたのだが。


「それで…本当に、木戸川から?」
「え、あれ?言ってなかった?私、木戸川清修でサッカー部のマネージャーやってたんだよ。あと、トラ……じゃない、貴志部くんとは幼馴染み!」
「…そうなのか…」


転校生紹介のときにもマネージャー希望だと言われたときも、そんなこと一度も聞かなかった。

まあ、そんなこと、特別気になっていたわけではないのだが…。


「へえ、仲良いんだな、貴志部と」
「あ、霧野くん、お帰りなさい」
「ただいま」


コンビニのレジの前で焼き鳥にするかフライドポテトにするか延々と悩んでいた霧野がやっと店から出てくる。

結局どちらを選んだのかと彼の持つ袋に目をやると、うっすらとフライドポテトの影が見えた。


「トラちゃん、昔は私より泣き虫だったんだよー。私の方が強かった!」
「ははっ、神童みたいだな」
「え?」
「っおい、霧野!余計なこと言わなくていい!」
「え、気になるよ!何?どうしたの?」


…霧野のやつ。嫌がらせだとしか思えない。

城ヶ崎さんが食い付くの、分かってるじゃないか。


「…何でもない。忘れろ」
「ええっ…」
「ははっ、また神童がいないときに聞かせてやるよ」
「霧野!!」


お前は本当に俺を親友と思っているのか。
微妙なところだ。いつもはそんなに目立ったものではないが、今日は特にそう感じる。


「…それで?今はやられっぱなしか?」
「あ、話そらした」
「…話を戻したんだ」
「あー…うん、なんかね、トラちゃん、最近話してくれなくて。…サッカー部のみんなもね、なんだか…ギスギスしてて」


寂しそうにそう言って足をぶらぶらと揺らす少女に、少しばかりの罪悪感。

それは霧野も同じだったようで、それ以上は追及しない。


「でも、メールなんかは時々してるんだよ。それに私が転校するって決まってからは、みんないつも以上に優しくしてくれたし!」


明るく無邪気な城ヶ崎さんの笑顔に嘘はなかった。

暗くなった空気を和ませるための慰めなどではなく、心の底からそう思っているようで、安心した。


「ん!肉まん美味しかった!霧野くん、ポテト少しちょうだい!」
「一本10円な」
「お金をとるのか」
「えっ酷い!いいもん、神童くんの唐揚げ貰うもん!ちょうだい、神童くん!」
「え、あ、ああ…」


食い意地の張ったリスだなとか思いつつも、つまようじに最後の唐揚げを差して彼女に差し出す。

そしてそれを手渡そうとした、瞬間。


ぱくりと、城ヶ崎さんは唐揚げにかぶり付いた。


「…え」
「んむぅー!おいひーね、からあへ!…んぐっ、次から私も唐揚げにしようかなっ!」


一口か、なんて突っ込みはどこかへ吹っ飛ぶ。

今、俺の手から、直接………


「…っ」
「ぶっ…!」


我に返った瞬間、頬が熱くなっていく。

霧野が笑いだしたところを見ると、今の俺はきっと真っ赤になっているんだろう。

ああもう、この小学生は、どこまで子供なら気がすむんだ。


「…鈍すぎるんじゃないのか」
「えっ何?何か言った?」
「…別に」


はあっとひとつため息をついて、俺は唐揚げの入っていた紙パックを握りつぶした。




 

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