ロリ転校生

□06
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「…城ヶ崎さんが?」


霧野に事の一部始終を聞かされ、正直信じがたい事実に目を丸くする。

どこからどう見たってあれは、俺を無視していたようだったが。


「それに、次からは勘違いされないように頑張るって言ってたぞ。少しは認めてやってもいいんじゃないか?」
「…認めるも何も、彼女はもうマネージャーだろう」
「だからさ、もうちょっと優しく接してやってもいいんじゃないのか、って話」
「…随分と城ヶ崎さんに入れ込んでいるんだな」


そこまであからさまに贔屓目にされると、何か裏があるのだろうかと疑ってしまう。

けれど霧野が嘘をついているようには見受けられない。


「入れ込んでるっていうか…似てるんだよな、お前に」
「俺に?どこがだ」
「期待に応えたい、もっと頑張らなきゃ…って精神が」


何もかも見透かしたように笑う霧野に、虚を突かれて思わず言葉につまってしまう。

彼は俺が言葉を返せなくなることも予想していたとでも言いたげに、勝ち誇った笑みを浮かべた。


「…俺と城ヶ崎さんは違う」
「…ま、いいけどさ。帰ろうぜ」
「……ああ」


似ている、わけがない。
何もせずとも人気者で、外見精神ともに子供な彼女と俺が。
似ているなんて、ありえない。


「…そんな考え込むなよ」
「…別に、考え込んでなんか…」
「あっ、神童くん!」


玄関まで来ると、今日ずっと俺を悩ませている張本人が俺を呼ぶ声がした。

無視してやろうかとも考えたが、隣に霧野がいたことを思いだし、渋々彼女と向き合う。


城ヶ崎さんは、特徴的なサイドテールを揺らしながら、駆け足で俺たちに近付いてきた。


「…何か用?」
「えっと、あの…これ」


すっと彼女が差し出してきたのは、そこらの自動販売機に売っている、スポーツドリンク。

一体どうしたんだと、俺は不審げに視線を落とす。


「…えっと、お詫び。失礼なこと、いっぱいしちゃったから……」
「…自覚はしていたんだな」
「おい、神童!」


霧野がたしなめてくるが、今はこうでも言わないと収まらない。

けれど予想に反し、彼女は反論してはこなかった。


「…ごめん、なさい」


素直な謝罪が、今の俺には気に触る。

自分でも、大人げないとは思うけど。


「素直なのは、霧野に忠告されたからか?」
「神童!」
「霧野は黙っていてくれ」


それが、どうしても気に入らなかった。

人に言われたから?
いつまで子供でいれば、気が済むんだ。

心に小さく巣くった嫌味が、次々に溢れてくる。


「どれだけ身形は幼くても、もう中学生だろう。自分勝手な理由で態度をころころ変えられては、迷惑だ」


城ヶ崎さんは何も言い返してこない。

そんな彼女に、俺はため息をつき、ドリンクを受け取らずに部室棟を後にした。


しようと、した。


「だから、ごめんなさい!!」
「っ」


振り返って彼女を見る。

何の躊躇いもない、真っ直ぐな瞳。
まるで俺の言ったことを理解していないようにもとれる、反抗的な目だ。


「終わっちゃったことは仕方ないから、反省する!ごめんなさいって謝る!悪いと思うことしたら、そうするのが当たり前だよ!」
「…ぶっ」


背後で霧野が再び吹き出す。

…ああもう、どうでもよくなってきた。

彼女が本気で反省しているからこそ、何も言えなくなる。

彼女の言葉に迷いが感じられないからこそ、その言い分に納得してしまうんだ。


「…もう、分かったから」
「じゃあ、仲直り!」


そう言って、なぜか手を差し出してくる城ヶ崎さん。

息をつきながら、俺は彼女の手を取った。


「あっでも、謝ったのはドリンクのことだからね!それだけだからね!」
「…俺も」
「えっ?」
「…ごめん。むきになりすぎた。それに…霧野から聞いたんだ。ちゃんと俺の分も、用意してくれていたって」
「えっ…き、霧野くん!なんで言っちゃうの!」


あたふたと慌て始めた城ヶ崎さんの髪を、霧野がぐしゃぐしゃと乱す。

ああ、髪の色のせいか、兄妹みたいだ。


「…あ」
「え?」
「…神童くんが笑った…」


ぽかんと口を開けて驚く彼女に、失礼な、と言いたくなる。

俺だって普通に笑ったりもする。


「…おかしいか?」
「ううん、笑ってる方が好き!」


城ヶ崎さんのその一言に、今度は俺が固まる番。

そんな何の躊躇いもなく、好きだなんて、よく言えたものだ。


「神童ー、顔赤いぞー」
「うっ、五月蝿い霧野!」


どうにも、俺らしくない一日。

今日のこの日に別名をつけるなら、そんなところだろうな。





 

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