ロリ転校生

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「マネージャー、こっちにもドリンクー」
「ついでにタオルもお願いしまーすっ」
「はーいっ!」


恐らく自分の身体の半分以上の大きさがあるであろうクーラーボックスを抱えて危なっかしく走る城ヶ崎さん。

見ている方がハラハラする。


「しーんどうっ!」
「……なんだ、霧野」
「うわっ、不機嫌だなー」
「誰のせいだ!」


さっきまで笑い転げていた霧野は復活し、何事もなかったかのように練習をこなしていた。

この余裕綽々とした態度、親友ながら殴り飛ばしたい。


「城ヶ崎、しっかり仕事してるじゃないか」
「…あれくらいは普通だろう」


皮肉たっぷりにそう言うと、霧野は苦笑して城ヶ崎さんへ視線を向ける。


「俺にはお前がそこまで彼女を毛嫌いする理由が分かんないけどなー」
「別に毛嫌いしているわけじゃ…というか、だから誰のせいだと…」
「おーい城ヶ崎!こっちにもドリンク!」
「…………」


…今日の霧野はつくづく人の話を聞かないな。

心なしか俺をからかうことを楽しんでいるようにも見える。


「はーいっ!」


小動物が駆け寄ってくるような、そんな効果音の似合う彼女。

まあ中身も小動物のように愛らしければ、何も言うことはないのだが。


「お待たせっ!はいっ、霧野くん!」


ナチュラルに俺を無視しようとするその精神が気に入らない。

俺に言わせれば、俺が彼女を毛嫌いしているのではなく、彼女が俺を毛嫌いしているから、こうして険悪なムードが続くんだ。


きっと待っていてもドリンクは手に入らないのだろうと思い、俺は無言でベンチへ向かった。











「なあ、城ヶ崎」
「なあに、霧野くん」
「お前さ、なんでそんなに神童のこと嫌いなわけ?」
「え…」


俺がそう問いかけると、彼女は目を丸くして言葉につまる。

どうやら無意識に避けているとか、そういった良質の類ではないらしい。


「…嫌いなわけじゃ、ないよ」
「いや…今だって、あからさまに無視してたじゃん」
「違うよ!神童くんの分も用意してたよ!」


…そんな様子は見受けられなかったが。

じっと城ヶ崎さんを見つめていると、彼女は俯き、言った。


「…ドリンクと、タオル、一人一人に、真っ直ぐ向き合って渡したいんだもん」


彼女の言葉に、俺は思わず目を見開く。

どうやら、言い訳だとかいった意地の悪いものではないようだ。


「…喧嘩してるとか、そんなの、関係ないよ。だって、私、マネージャーだもん。選手のみんなにきちんと向き合ってこその、マネージャーだもん…」


…ああ、これでは本格的に神童が悪者だ。

からかいすぎたお詫びに彼のイメージアップをしてやろうと思ったのだが…逆効果。

それどころか、俺にまで悪者フラグが立ちかけている。


「あ…えっと、城ヶ崎……」
「…でも、そうだよね。確かに今のは、勘違いされちゃうよね…。うん、ちゃんと次からは、勘違いされないように頑張るよ!ありがとう、霧野くん!」


…開いた口が塞がらないとはまさに今の俺のような状態を指すんだろう。

単純で、けれどきっと俺や神童なんかより、何倍も大人なんだ。


「…あ、」
「練習再開ーっ!!」


普段より幾分か苛立ったような神童の声がグラウンドに響く。

それを合図に、みんなぞろぞろと練習を開始しはじめた。


「あっじゃあ私、行くね!ごめん、話し込んじゃって!じゃあね、霧野くんっ!」


元気に駆けていくその小さな後ろ姿に、思わず笑みがこぼれる。

…今の話は、ちゃんと神童に報告してやるからさ。




 

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