ロリ転校生

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とりあえず俺は彼女に見付かるまいと、そっと前の席にいる霧野の背に隠れるように身を伏せる。

だがそんな努力も虚しく、数秒もたたぬうちに気付かれてしまった。


「ああっ、さっきの!!」


彼女のその一言で、先程まで城ヶ崎さんに集中していたクラス中の視線が一斉に俺に向く。

…勘弁してくれ。


「…知り合いか?」
「…いや…別に…」
「あれっ!?ひ、人違い!?ごめんなさい!!」


あれ、意外と簡単に騙された。

慌てて俺に頭を下げる彼女を見ている限り、冗談で言っているわけではないらしい。


「えっと…コホン。改めて、城ヶ崎美波です。今日からここでお世話になります。宜しくお願いしますっ!」


ぺこりと効果音がつきそうなくらいに子供っぽいお辞儀をして、城ヶ崎さんは自己紹介をする。

つか今、コホンって口で言った。

顔を上げて嬉々なる表情を隠さず表出させる彼女に、一気にクラスの空気が柔らかくなった。


『…なあ、可愛くね?』
『つか、小さいな』


そんな噂話をされていることなど知らない少女は、ただただにこやかにクラスを見渡している。

静かに、と担任が喝を入れたところで教室は静まり返るわけもなく。


「まったく…転校生ではしゃぐな!いくつだお前ら!」
「せんせーっ、城ヶ崎さんの席はどこですかーっ!なんなら俺の隣でも…」
「開いてねーじゃん」
「…そうだな、席は神童の隣でいいだろ」
「ちぇーっ」


…待て、どうして俺なんだ。確かに隣は空いているが、まだ一番向こうの席も空いているだろう。

転校してきたばかりなんだし、やっぱり女子が隣の方がなにかと過ごしやすいんじゃないのか?

そう思って彼女に目をやると、不審気に眉を寄せてこちらを見つめてきていた。

まったくもって怖くないのは何故だろうか。


「……神童?」
「ん?ああ、あそこの一番後ろの…」


俺が指を指されたとたんに、城ヶ崎さんはわなわなと震え出す。

…あ、嫌な予感が。


「やっぱりさっきの人だっ!!嘘つかないでよっ、騙されたじゃないっ!!」


いや…騙す気もなかったわけだが、あまりにも単純だったのでつい甘えてしまったのだ、仕方がない。


なんてこんな状況でも頭が冷静になっている辺り、俺はやはり空気が読めなくて冗談の通じない男なのだろうな。


「…神童、知り合いか?」
「…いえ」
「ええっ!?じっ、地味に傷付くから知らんぷりはやめてっ!!」


ああ駄目だ非難の視線が痛い。
クラスみんなの目は間違いなく『小さい子を苛めるな』と言っている。

…なんなんだ、今日のこの不運。


「無視はやめてってばーっ!!」


…ああ、聞こえない、聞こえない。






一方的に俺に絡んできていた城ヶ崎さんを、先生は子供をあやすように宥め、なんとか俺の隣に誘導する。


ついでに彼女の席を替えてくれると嬉しかったんだが。


「……よろしくね」


座っている俺と目線が変わらない彼女は、ジト目で頬を膨らませ、上目遣いでこちらを見上げてそう言った。

本人は睨んでいるつもりなのだろうが、全くもって効果がない。ついでに言うと威厳もない。


「…なんか、また貶されてる気がする」
「凄いな、どうして分かったんだ」

「先生ー、神童が城ヶ崎さん苛めてますー」
「霧野!?いや、苛めてない!!」
「えっ、今の苛めてない部類なの!?」
「神童は真性のドSだからな」
「え」
「霧野!!妙なこと吹き込むな!!誰が真性のドSだ、ああもう視線が痛い!!」


なんなんだもう、なんなんだ。勝手に人のイメージダウンをさせないでくれ。


「とりあえず座れ城ヶ崎ー。神童は城ヶ崎いぢめをやめろー」
「苛めてないですってば!!」


先生まで…人をいじめっ子扱いしないでほしいものだ。幼女を苛める趣味は言わずもがな、人を苛める趣味など持っていない。

渋々俺の隣にちょこんと座る彼女。…足が地についていないからって必死に伸ばしても、つかないものはつかないだろうに。


「城ヶ崎ー。足が届かないからって足ぶらぶらさせるなー。後で机代えてやるから…」
「分かってても言わないで先生!!みんな気付いてなかったのに!!」


わっと泣き崩れるフリをする城ヶ崎さん。俺よりよっぽど先生の方が彼女を苛めている気がするがな。







HRが終わり、クラスの皆に囲まれた城ヶ崎さんは、その始終ずっと交代で頭を撫でくりまわされていた。

けれど彼女は怒らなかった。

それが少し面白くなかったとは、霧野には口が裂けても言えない。



 

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