ロリ転校生

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風にふわりと揺れる、薄いピンクのサイドテール。同色の透き通った瞳。

その少女は、落ち着きなくサッカー棟の辺りをうろちょろとしていた。


「……?」


生徒にしては幼い。私服だし、サッカー部員の誰かの妹だろうか。

ふらふらとあっちに行ったりこっちに来たり、その姿はとてつもなく危なっかしい。

見ていられなくなって、俺は少女に声を掛けた。


「どうしたんだ?」
「ほうあ!!…え、あ、えっと、職員室の場所を教えて頂きたいのですが…!!」


…随分としっかりした子だ。身長や顔つきからして、小学3,4年生だろうに。
頂きたい、なんて言葉、この年頃の子供が使えるものなのか。


「職員室?あっちの建物だが…」
「ほええ!?じ、じゃあ、この建物は…!?」
「サッカー棟だ」
「さっ…さ…?サッカー…棟?」


サッカー棟を知らずにここへ来たということは、どうやらサッカー部の誰かの妹ではないらしい。

ほえー、とよく分からない感嘆の息をつき、彼女は俺に向き直る。


「えっと、ありがとうございました!このお礼は、いつか必ず!」


…ぺこりとサイドテールを揺らして頭を下げる少女に、素直に感心してしまう。

少し危なげな一面もあるが、礼儀に関しては言うことなし。天馬にも見習わせたいものだ。


「大丈夫か?職員室まで送ろうか?」
「えっ…いいんですか?あっ、いえでも、悪いですよ…!」
「いや、小学生一人では危ないからな」


俺がそう言った瞬間、ぴたりと彼女の動きが止まった。肩が震えている。…どうしたのだろうか。


「どうしたんだ?」
「………っれが…」
「え?」
「誰が……っ、小学生だあああああ!!」


……小学生ではないのか。だったら、幼稚園児…?いやそれにしては、身長が少し高いような気が……。


「…?えっと……」

「城ヶ崎美波!!これでも!!低身長で童顔でもこんな髪色でも!!れっきとした!!中学二年生だあああああ!!」


声の限りそう叫ぶ少女に、俺は目を見開く。…いや、ありえない。どこからどう見たって、小学校低学年……。


「……えっ…と…」
「…?」
「…すまない、冗談が通じないってよく言われるんだ」
「冗談じゃないよ!!事実を受け入れてよ!!」


「城ヶ崎さん!」


そんなやりとりをしていると、唐突に背後から声がした。多分、音無先生だ。


「やっぱり迷ってたのね。探しに来てよかったわ…」
「音無先生、この子は…?」
「ちょっ、この子って言うなっ!!中学二年生だってば!!」
「ああ、彼女は今日、雷門中に転校してきたのよ。制服は間に合わなくて私服なんだけど」
「えっ、私のことはスルーですか先生!?」


……嘘、だろう。
この小さいのが、同い年で、転校生…?


……世の中、分からないな。


「あっ、今絶対失礼なこと考えた!!助けてください先生、彼が苛めます!!」
「えっ、あ、いや…苛めたわけじゃなくて、つい本音が…」
「更に失礼だよ!!!」


俺の言葉に身体全体を使って反応を示す彼女…城ヶ崎さんを、ついつい可愛いだなんて思ってしまった。

……いや、駄目だな今の発言は。ロリコン疑惑がかかってしまう。

初めに言っておくが、別に俺にはそういう趣味はない。


「もー、神童くん!それくらいにしてあげて!」
「あ、す、すみません!そんなつもりは…!」


むすっと膨れっ面な彼女をちらりと横目で確認して、ちょっと罪悪感に苛まれる。

いや、だが、むしろ小学生と間違わない方が凄いんじゃないか…?


「…その、…ごめん」
「……いいよ、大丈夫。言われ慣れてるから…」
「ああ、やっぱり」
「嫌だもう絶対許さないっ!!先生、何なんですかこの失礼な人!!」
「ええ!?」


許してくれたと思ったんだが……何が悪かったのだろう。失礼な人とまで言われてしまった。


「……神童くん、それ素なの?」
「え?」
「……そう。なら、もう何も言わないわ」
「先生ーっ!!お願いですから否定して!!」


…一体、何なんだ。

きゃあきゃあと五月蝿くなってきた城ヶ崎さんを音無先生が宥めていると、HR開始予令のチャイムが鳴った。














「おはよう。遅かったな、神童」
「ああ…霧野、おはよう。いや、サッカー棟の前で、変な転校生に会って…」
「転校生?ああそういえば、今日うちのクラスに転校生が来るらしいけど」
「……え?」


霧野とそんな会話を交わした直後、担任の先生が教室に入ってきた。


「えー、お前らもう知ってるだろうけど、うちのクラスに転校生が来た」


ざわめく教室。まさか、と、俺の背には冷や汗が伝う。


「入っていいぞ」
「はい」


先生に呼ばれて教壇に立ったのは、予想通り、先程の彼女だった。



 

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