巫女さん
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「…え、未来…って、え…!?」
「驚かれるのも、無理はないと思います。この時代にはまだタイムマシンが出来ていませんから」
この時代も何も…というか先の時代にはタイムマシンができているというのか。
…科学の進歩というものは凄まじい。
「私は、逃げてきたんです」
「…に、逃げるって…何から…?」
「…それは企業秘密ですよ。私が未来人だということも本来、知られてはいけない極秘事項ですから」
…そんな大事なことを、俺なんかに教えてもいいものなのだろうか。
ただただ展開の速さに驚いていると、昴さんはそんな俺に気付いて苦笑をする。
「先程の男たちは、私の生きている時代よりも遥か先の未来からの追っ手です。私を元の時代に連れ戻さなければ、不都合が起きるらしくて」
「は?連れ戻す…って、どう見てもあれ、殺す気だったじゃないですか!!」
何の躊躇いもなく発砲をしてきて、あれで…連れ戻すためだけ、だとか。
…ジョークにしては笑えない。
「…うーん、私は身体が頑丈ですからね」
「そ、そんな理由で済まされる範囲じゃないですよ!!女の人に向かって、大人数で発砲するなんて…!!」
もし本当に当たりでもしたらどうするのだ。
確かに、彼女は強かった。
あの人数の大男たちを、無傷で殺して血祭りに上げて……う、思い出したら吐き気が。
あの光景を作り出した張本人につい視線が向くが、彼女はというと、大きな瞳を丸くして瞬きをしている。
…何なんだ。
「…面白い方ですね」
「は?」
「私を女の人扱いしてくれる人なんて、初めてです」
そう言って優しくふわりと笑った昴さんに、自分でも驚くくらい、心臓が高鳴った。
こんなに綺麗な人なのに、女扱いをされたことがないなんて。
そんな疑問は頭から消えてしまう。
「あ、そういえば私、まだ名前を聞いていませんでした」
「え?あ、霧野です。霧野、蘭丸」
「霧野さん、ですね」
鈴が鳴るように凛としたその声で名前を呼ばれると、どうにも顔が熱くなって仕方ない。
単に彼女が美人すぎるからだとか、そんな理由じゃないことは分かってるけれど。
そう考えずにはいられない。
胸の鼓動が五月蝿いのは、絶対に恋なんかじゃないと。
未来人に恋なんて、報われないにも程があると。
そう思いたかったから。
そう、自分に言い聞かせたかったから。
「あ、そういえばお茶の途中でしたね。新しいのを淹れますから、少しお待ちくださいね」
「い、いいですよ!俺、そろそろ帰りますから…!」
「あら、そうですか?では、また次の機会に」
……次の、機会。
それは、また来てもいいということなのだろうか。
期待をしても、いいのだろうか?
「…はい。それじゃあ、…また」
「ええ。いつでもいらしてくださいね」
…自惚れかも、しれないけど。
そう言って笑った彼女は、心底嬉しそうに見えた。
それが嬉しくて、俺も精一杯の笑顔を返す。
こうして、過激な序章は幕を閉じたのだった。
次の日は、生憎の雨。
職員会ということで部活もなくなり、HR後はすぐに放課となった。
けれどむしろ、それは好都合。
練習が出来ないのは痛いが、それでも今はそれに勝る楽しみがある。
…会いたい。
早く、昴さんに。
「悪い神童、先に帰る!」
「?分かった、また明日な」
「ああ!…明日、頑張ろうな!!」
明日は土曜日。
…帝国学園との、試合がある日だ。
(…応援に来てくれたり、…はしないか)
そんなの、自惚れにも程がある。
…頭では、それくらい分かっているのだが。
ふいに、彼女の見せた笑顔と泣き顔が、同時に頭に浮かんでくる。
あんな顔を、誰にでも見せるわけがない、とか。
少しは自惚れてもいいんじゃないか、とか。
(…自意識過剰ってやつかな)
…期待してみる価値はあるんじゃないか…なんて。
考えることが、安直すぎるだろうか。
自分の単純さに苦笑をもらしながらも、俺はさっきよりも更に弾んだ足取りで、外守神社へと向かった。