長編

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「神童24票、卯宮が25票で、王子は卯宮に決まりだな!」


わぁっと歓声がそこかしこから起こり、前の席の神童がほっと胸を撫でおろしていた。

それに苦笑しながら、ふと気になって卯宮の方へ目を向けると、ぱちくりと瞬きを繰り返す美男(女)子の姿。


「王子…って、何のことだい?」
「あ、そっか、卯宮は休んでたもんな。今度の文化祭で、劇することになったんだよ。眠れる森の美女!」
「え…」


やっとのことで事の重大さを理解したらしい彼女はさっと血の気を引かせる。

まあ知らないうちに投票までされていたんだ、無理もないだろう。


「そ、そんな大役、僕には務まらないよ!神童くんが……」


そこまで言って口を閉ざしてしまった卯宮の視線を辿ると、泣きそうな顔で弱々しく首を横に振る神童。

…そういやあいつ、ピアノの前で以外はからっきしなんだった。


「…う、わ、分かったよ神童くん…ごめん……よ、よし、その役、引き受けるよ!」


再び歓声があがる中、黒板に書かれた彼女の名前に、大きく丸印がつけられた。















「いーやーだッ!!」
「満場一致で決まったんだから諦めろ霧野!」
「おかしいだろ!!なんっで俺が…姫役なんだよおおおおおお!!」


女子!!お前たちはそれでいいのか女子!!女子の威厳とかないのか女子!!!

大体卯宮が王子役の時点で(まあ確かに彼女は男前だが)間違ってるだろう、この劇はどこへ向かおうとしてるんだよ!!


「ま、まあまあ霧野くん…落ち着こう、ね?」
「落ち着いていられるかっ!!満場一致ってどういうことだ!!卯宮や神童まで賛成しやがって…!!」


どいつもこいつもクラスの圧力に負けて俺を裏切りやがった。

確かに少し女っぽい顔つきなのは自覚しているが…実質は男なんだから本物の女には絶対に劣っているはずだ。

それでもなお俺を推すか!!


「い、いいじゃないか霧野くん!こういう経験も大事だよ!」
「そ、そうだぞ霧野。たまにはいいじゃないか」


自分はちゃっかり衣装係にまわっておいてよく言うよ神童。

俺は初めてお前を殴りたいと思った。


「…でも、お姫様の格好をした霧野くんは、きっと凄く可愛いよ」
「嬉しくない!!」
「ドレス姿の霧野くん、僕は見たいな」


…う、ぐ。

…なんだその小動物みたいな目、拒むに拒めない。

大体男のドレス姿なんて見て何が面白いんだ、ネタか、ネタにする気か!…と、彼女以外になら言えたんだろうけど。


「…………」
「どうしてもダメかい?霧野くん…」
「…………」
「霧野…」
「ああもう分かった!!やってやるよ!!やればいいんだろやれば!!」
「霧野くん…!」


ぱああ、と無邪気に瞳を輝かせる卯宮はもう魔性の女だと思う。

一体どうすればそこまで純粋に育つのか、彼女の親に聞いてみたいものだ。


「それじゃあこれ、台本だよ!僕もさっき渡されたんだ」
「ああ…ありがと、……ん?」


ぱらぱらぱら、と適当にページをめくっていると、何故か太字で『ここ重要』と書かれた場面。

一体なんだと視線を落とす、と。


「は!?」
「!?な、なんだい霧野くん、どうしたんだい!?」
「いっいや…卯宮、この台本、ちゃんと目…通したか?」
「?いや、今貰ったばかりだから…どうかしたのかい?」


どうしたもこうしたも…いやこれ、はぁ…!?

ない、絶対にありえない…!!


「…霧野くん…?」


確かに眠れる森の美女はこういうストーリーだったようななかったような気もするが…こんなところまで忠実に再現しなくてもいいんじゃないか…!?


「…どうしたんだい?顔…真っ赤だよ?」
「な、なんでもない!!」


ありえない、なんなんだこのラストシーン。

お…王子役と、つつつまり卯宮と、き、キス、だなんて!



 

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