長編
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「休みなんていただいてしまってすまなかった、葵くん、茜くん、水鳥くん!!」
「い、いえ!」
「私たちも、お見舞い行けなくてごめんね、那月ちゃん…」
「そんなこと構わないよ!!それより三人とも、僕のいない間に怪我なんかしなかったかい!?」
「心配性だな、大丈夫だって!」
直角に礼をして謝罪を述べる卯宮。
土下座すら仕出しそうな勢いだ。
「今日は昨日の分までしっかり働くからねっ!!」
「えっ先輩が二日分も働いたら私たち、することがなくなっちゃいますよ!?」
楽しげに話をするマネージャー陣に些か安心する。もう彼女も体調は万全らしい。
元気な姿が見られて良かった。
「しーんどう?」
「っ!な、き、霧野」
「さっきから、卯宮ばっか目で追ってるぞー?」
「そ、そんなことない!」
にやにやと頬を緩める霧野に、卯宮を見つめていたことを自覚させられて顔が火照る。
…そんなつもりはなかったのだが。
「なあ神童」
「な、なんだ」
「お前さ、後輩に先越されてもいいわけ?」
唐突すぎる意味の分からない質問に、思わず間の抜けた声が出る。
せめて主語が分かるようにしてほしい。
「…?」
「…だからさ、卯宮、天馬に取られてもいいのかよ?」
「は!?」
と、取るも何も別に俺は卯宮と付き合っているわけでもないしまず彼女に対して恋愛的に好きだとかそそそういう感情も持ち合わせてないっ!
どこを見て何を思えばそんな結論に至るんだ霧野…!
「お、俺は別にそのっ、そんな…!!」
「え、隠してるつもりだったのか?」
「!?」
だから隠してるも何もないというのだ、元々有りもしないものをどう隠せというんだ…!
「まあ、注意するのは天馬よりも剣城かもなー」
「なっ!?」
「料理はできるし紳士で気配りも完璧、あれで惚れない女はいないんじゃないか?」
「な、な、な…!」
た、確かに…あれは男の俺の目から見ても完璧だった。
い、いやっだが卯宮が剣城のようなタイプを好きだという確証は…!
…っじゃない違う!!今のは…あれだ、確かに昨日の剣城は凄かったな、とかそういう…!!
「…俺、今お前が何考えてるのか分かるぞ」
「え…っ」
「卯宮が剣城を好きだって確証はない、…とかだろ?」
「な、なななっ」
…心を見透かされた気分だ。
幼なじみというものは恐ろしいな…
「ま、俺は神童を応援するから、負けるなよ?」
「だ、だだだから、そんなんじゃない!」
…好き、だとかそんな感情はよく分からない。
確かに卯宮は仕事もできて優しくて努力家で…凄く、魅力的だとは、思う。
けれどだからといって、そんな単純な理由で彼女を好きになるなんて…!
「神童くん!霧野くん!」
「っ!!」
と、一人悶々と頭を抱え込んでいたところに背後から俺を悩ませている張本人の声。
心臓が止まるかと思った。
「昨日はわざわざありがとう…凄く助かったよ!それで、これ、よかったら」
おず、と卯宮が差し出してきたのは、星柄のビニールの包みに入ったパウンドケーキ。
「どうしたんだ?これ」
「朝、作ってみたんだ。口にあうかは、分からないんだけど……」
「へえ…卯宮、料理できるんだな」
「う、うん、一応…嗜む程度だけどね」
照れたように笑う彼女に普段の男らしさなんて全くなくて、思わずドキッとしてしまう。
こんな…女性らしい一面も、あるんだ。
「わざわざありがとうな、卯宮」
霧野がそう言って卯宮の掌の包みをひとつ持ち上げると同時に、今まで霧野を見ていた彼女の瞳が俺に向けられた。
「神童くんも、よかったら…あ、甘いものは嫌い、かい?」
「いっ、いや!そんなことない!」
「そ、そうか、それならよかった」
はにかんだように愛くるしく笑った卯宮に、顔だけでなく耳や首まで熱くなっていく。
…ああ、なんだかもう、誤魔化せないところまで来てしまった。
霧野の言う通り、俺は彼女に、卯宮那月に恋い焦がれているのかもしれない。
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神童がオチました((