長編
□07
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ガチャリと開いた扉の向こうから覗いたのは卯宮先輩本人、…だったのだが。
「えっ、ちょ、な、なななっ、なんっ、那月さん…!?」
一番に声を上げたのは松風。
他は皆各々に動揺していた。
…もちろん、俺も。
それもそのはずだ、まさかこの、身内でもない男5人の前に、だ。
女一人が下も履かずYシャツのみの姿で出てくるなんて、大胆にも程がある。
「だだだダメですそんなカッコ、は、早く中に入ってください!!」
「えっ…あ、すまない、今まで寝ていたものでね……」
寝るときにいつもそんな格好をするものなのかは疑問だが、卯宮先輩は相当熱に侵されているらしい。
松風に指摘を受けてもひとつひとつの動作がスローテンポすぎる。
「えっと…あがって、汚いところだけど…」
「そ、それはいいっすから!服!服着て…っ」
狩屋がそう言ったとほぼ同時に、霧野先輩が無言で早足に部屋へ上がっていく。
それから、自分の制服を勢いよく卯宮先輩に被せた。
「バカ。ちゃんと着てろ」
「え…だいじょうぶだよ、これくらい…」
「俺らが大丈夫じゃない。ほら、ボタン閉めるぞ」
「で、でも…これは霧野くんの……」
「いいから」
動揺ひとつせずに彼女に制服を着せる先輩に思わず感心してしまう。
面倒見がよくて紳士とは。
「ん…や、霧野くん、胸、くるしいよ……」
「!?」
反射的に(あくまで反射的にだ!)先輩の胸の辺りに視線を向けると、全体的には少し大きいようだが確かにその部分だけはキツそうだった。
「あっ…と、とりあえず!服持ってくるから…それまで我慢しろ!」
「んぅ…すまない、迷惑をかけてしまって…」
「天馬!狩屋!卯宮の服、持ってきてくれ!神童、いつまで固まってるんだ!」
ふと隣を見ると顔を真っ赤にしたまま固まっているキャプテン。
…ある意味紳士だとは思う。
「剣城!俺が卯宮を担ぐからベッドの用意してくれ!」
「あ…はい」
担ぐ、…他に言い方はなかったのかと思ったが口には出さない。
言われた通りにベッドを探し、布団を捲って受け入れ体勢を整えた。
「神童!」
「えっ、あ、な、なんっ…」
「そこにあるタオル、水に濡らして持ってきてくれ!」
「あ、わ、分かった」
やっと正気に戻ったらしいキャプテンが慌てて落ちていたタオルを拾って台所へ駆けていく。
それに伴うように服を探しに行っていた松風と狩屋が戻ってきた。
「Tシャツならありました!あとズボン!」
「よし、…卯宮、着替えられるか?」
「あ、ああ…大丈夫だよ……」
とろけた瞳を見る限り大丈夫だとは到底思えないが、服を着てもらわないことにはどうにもならないので、俺たちは後ろを向く。
とまあ、ここでタイミング悪く、濡れたタオルを持った神童先輩が戻ってきたのだが。
「38度8分…って、病院行った方がいいんじゃないのか」
「いや、だいじょうぶ、だよ」
「大丈夫じゃないですよ!」
「だ…だが、これくらい、いつものことだから……」
…驚いた、いつものことということは、身体が弱いのか。
あの運動神経の良さからは考えられない。
「薬は?」
「食後、と書いてあったから、ごはんの後にしようと……」
「まだ食べてないのか?」
「ああ…食欲は、あるんだが……」
ああなるほど、身体がだるくて作るにも作れない、買いに行くこともできないというわけか。
「…作りましょうか」
「え…?」
「え、剣城?」
「簡単なものなら、なんでも」
と言っても食べられるものに限りがあるだろうから、簡単なもの、なんてことも言っていられないのだが。
「い、いや、そこまで迷惑をかけるわけには…!」
「…いいですよ別に。迷惑とか思いません」
「で…でも……」
…風邪のときくらい、気など使わなくていいのに。
料理くらい、容易いものなのだから。
「いいから。…リクエスト」
「…それ、じゃあ…お言葉に、甘えて……」
小さな声で、お粥が食べたい、と告げた卯宮先輩に了解の意図を伝えて台所へ。
幸いにも材料は揃っているようで、これなら時間もかけずに済みそうだ。
俺は腕捲りをして、調理を始めた。