長編
□06
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ピピ、という機械音がぐらぐらと揺れる脳に響いてきて気持ち悪い。
目を閉じてその苦痛に耐えながら、脇に挟んでいた体温計を取り出した。
(…38度8分…か)
情けない。
確かに子供の頃から身体は弱かった方だが、たかだか雨に濡れたくらいで風邪をひいてしまうなんて。
(…迷惑を、かけてしまったかな)
今日も、部室に一番乗りをして、ボール磨きをする予定だったのに。
(…大丈夫だろうか……)
朝のうちは頭痛と目眩が手伝いすぐに眠れたのだが、一度起きると熱っぽさよりも自分が不甲斐ない点に思考が支配されてしまって眠れなかった。
葵くんや水鳥くん、茜くんにマネージャーの仕事を押し付けているのだと思うともう気が気ではない。
僕が転校してくる前は三人で全ての仕事をこなしていたのだから僕なんかが抜けたところで何の支障もないだろう。
けれど3日見ているだけで分かる。
彼女たちはとても頑張り屋で…そこが魅力でもある可愛らしい三人だ。
けれどだからこそ、無茶をしすぎてしまい、怪我でもしているのではないかと…心配で心配で。
気付けば夕方の6時、そろそろ夕御飯を作らなければならない時間だ。
なのに自分のことをすることがなんだか申し訳ないと感じてしまう。
(ば、馬鹿か僕は!こんなことを言っていて明日も休まなければならない事態になってしまうじゃないか…!)
夕食だけは、夕食だけは取らなければ体力が回復しないのに…!
と、頭を抱え込んだところで玄関のチャイムが鳴った。
正確に言うと、鳴ったのはマンションのテレビモニターホンなのだが。
ふらふらしながらモニターを確認すると、揺らぐ視界にうっすらと見えたのは雷門中の男子制服。
焦点を合わせるのに数秒、やっとその影の正体に気付く。
(あ……)
そこにいたのは、転校してきて一週間と少し、一番よく顔をあわせるサッカー部の面々だった。
「あっ開きましたよ!行きましょうっ!」
「おい待てっ、天馬!」
自動ドアが開くと同時に中へ走り出す松風、止めに入るのは神童キャプテン。
後ろでは狩屋や霧野先輩が呆れ顔だ。
「…あの、先輩」
「どうした?」
「どうして俺まで連れて来られたんですか」
「一人くらい空気の読める常識人が欲しかったからだよ、剣城クン」
「おい狩屋、だったら俺はなんなんだ」
「いっいや、霧野センパイは神童キャプテンが呼びましたから、ね?」
…前も後ろも騒がしい。
空気の読める常識人と言われても、松風以外は空気が読めないわけでもないし全体的に常識人だ。
それに俺よりも、マネージャーの誰かを連れてきた方が良かったはずだ。
男5人が見舞うよりも一人くらい女子がいた方が、卯宮先輩も気が楽なのではないだろうか。
そんなことを思いながらいつの間にか前を行く4人に渋々ついていく。
どうやら疑問を持っているのは俺だけのようである。
「このマンションってかなり高級ですよね?その最上階に住んでるなんて…那月さん、凄いんだなあ……」
高級感漂うエレベーターが珍しいらしくエレベーターの壁を見学する狩屋と松風。
…そんなところを見たってどうにもならないだろうに。
「ほら二人とも、着いたぞ」
キャプテンの声に、二人は壁から離れて我先にとエレベーターを降りていく。
…一年だからという理由で、俺までこんなやつらとひとくくりにされているのか。
……考えれば考えるほど憂鬱だ、帰りたい。
「ほら早く来てください!ピンポン押しちゃいました!」
「ち、ちょっと待て天馬!まだ心の準備が…っ!」
「お見舞いに行くのに何の準備がいるんだ神童、ほら早く来い!」
強引にキャプテンの腕を引く霧野先輩。
俺も含めた5人がドアの前に立つと、タイミングよく扉が開いた。