長編

□03
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「醤油ラーメンふたつ、とんこつラーメンふたつ、塩ラーメンと味噌ラーメンひとつずつ!チャーシュー特盛で!」


カウンターではなく机を囲む席に六人が座り、慣れた様子で全員分のラーメンを注文するのは浜野。

新入りの卯宮との親睦を深めようということで、彼女の席は真ん中、その隣には俺…霧野、そして神童。


まあいつも通り浜野、速水、倉間の三人、俺と神童の二人に分かれれば自然とこの組み合わせになるわけで。

俺らが『神童が耐えられるはずがない』と気付いた際には既に遅かった。


「みんなは、よくここに来るのかい?」
「んー、お金に余裕あるときはね!それ以外はコンビニ!」
「浜野くんがお金ないときに来たら、俺たち割り勘で奢らされますからね」
「コンビニでも似たようなもんだけどな…」


明るく盛り上がる卯宮と向かいの三人だが、ふと視線をふたつ隣へと向けると、一向に俯いたままの神童の姿。

相変わらずメンタルの弱い彼は、緊張で固まっているようだ。


「…どうしたんだい?神童くん」
「え、えっ!?」
「具合でも悪いのか?顔色が…」
「いいいいいや!!だ、大丈夫だから!!」


熱でもあるのだろうかと心配したらしい卯宮が伸ばした手をさっと避けて、神童は青かった顔を今度は赤くさせた。


「照れてんだよなー、神童は!」
「な、ち、違っ…は、浜野!!」
「照れる?どうしてだい?」
「えー、そりゃあ…」
「い、言わなくていい!!」
「えー?どうしよっかなー?」
「なんだい、気になるじゃないか!」


…ああ、止めなければ神童が羞恥に倒れてしまうと分かっているのに。

すまない神童、面白いから止められない。


「卯宮もこう言ってるし!な、ついでに謝っちゃえよ神童!」
「神童くん、隠し事はよくないよ!」
「あ、あ、あう、あう…!」


顔を真っ赤にして狼狽える神童が面白くて仕方ない。見ると速水や倉間も笑いを堪えている。
俺が言えた義理もないが薄情な奴らだ。


「さあ神童くん!言ってしまえば楽になるぞ!」
「そーそー!同じクラスなのが気まずいってさっきも…」
「うわあああっ!!それも言わなくていい!!」


…ダメだ、吹き出す。

元々笑いのツボが浅い俺にこのコントはキツい。


「気まずい?…もしかして、この間僕の胸を触ったことを気にしているのかい?」
「ふえっ!?」


お、核心突いた。
さすが鋭い。


「あああああ、ああえっと、えっと…!!」


…どうしようニヤニヤがおさまらない。頬の筋肉がつりそうだ。

こんなに動揺する神童は久々に見た。


「なんだ、そんなことか。いいんだよ、女の子扱いをされるのもなんだかむず痒いしね」
「ででででもなんかその、感触を思い出して女の人だって意識してしまうというか、って違う違う違う!!ごめん!!」
「…ぶはっ!」


…KYですまないな、吹き出したのは俺だ。

だってあの神童が、ここまで混乱するとか。

俺に続いて倉間も声を上げて笑い始める。
なんとか堪えてる速水もそろそろ限界らしい。


「わっ、笑うな馬鹿!!ち、違うから!!」
「神童のへんたいーっ♪」
「なぁっ…!!」


浜野の追い討ちに反論さえ出来なくなってしまった彼についに速水までもが吹き出す。

自分の胸を話題にされている当の卯宮本人も、にやにやと笑っていた。


「思春期だねぇ、神童くん」
「ち、違うって言ってるだろ!!俺はそ、そんな…!!」


そろそろ収拾つかなくなってきた話題に終止符を打つように、ラーメンが運ばれてくる。

俺たちもなんとか笑いを抑え、それを受け取った。


「いっただっきまーす!」


浜野のそんな声と共に、俺らは箸を割って器のラーメンを口にする。

だが、卯宮は少し悩む素振りを見せた後、神童に向き直った。


「神童くん、僕のチャーシューをあげよう」
「え?」
「その代わり、君のメンマを3つ貰う」
「は?」


いきなりよく分からない交渉を持ちかけられた彼は頭に疑問符を浮かべている。

それはそうだ、俺にだって意味が分からない。


「え、えっと…?」
「僕の胸の件はこのメンマ3つで手を討とう。その代わり僕が君をからかい過ぎた件は、チャーシューでチャラにしてもらえるかい?」
「え…」


ああなるほど、そういうことか。

また随分と優しい手の討ち方である。


「良かったな、神童?」
「…………」


顔を赤くして俯いた神童に、今度は朗らかな笑いが起こった。


「…ありがとう、卯宮」


多分神童的には、卯宮にしか聞こえないほどの小さな声で言った気なんだろうけど、俺にはバッチリ聞こえてる。

彼女が優しく微笑んだのも、俺はちゃんと見てたんだからな?



 

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