長編

□02
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朝、葵たちマネージャー三人が部室棟にやってくると、普段自分たちがしている仕事が全て片付いていた。


「ドリンクができてる…」
「うっわー、更衣室までピッカピカ!なんだよコレ、誰がやったんだ?」
「…ボールも、ピカピカ……」


三人は顔を見合わせる。

あの働き者の葵がしたわけでないとすると、一体誰がこれだけの仕事をこなしたのか。


「おっ、おはよう。マネージャーさんたちは早いんだな!」
「えっ、あっ、卯宮先輩…!?」
「…おいもしかして、掃除もボール磨きもドリンク作りも全部お前がしたのかよ?」
「ん?ああ、早く着きすぎてしまってね。暇だったから、つい。…いけなかったかい?」


しゅんっと落ち込んだように上目遣いで水鳥を見つめる彼、否…彼女を見る限りそれは嘘でもないし本気で暇だっただけのようである。

それにしても、この量の仕事をするのには、相当な時間が必要なハズだ。

…一体彼女はいつ学校に来たのだろうか。


「卯宮先輩、もしかして五時ぐらいに来て…!?」
「あはは、そんなに早起きはできないよ。ここに来たのは今から三十分くらい前かな」


三人は目を見張る、三十分で全てを終わらせて今ここにいるというのか。

加えて今、彼女はグラウンドの方からやってきた。

…ということは。


「…那月ちゃん、まさかグラウンドの整備まで…?」
「ああ、ベンチ磨きもバッチリさ!可愛い女の子たちばかり働かせていては申し訳ないからね!」


プリンススマイルV3。キラッと効果音が付きそうなくらい白い歯が光ってる。

まさに王子様だ、非の打ち所なくかっこいい。


パシャリと、カメラのシャッター音が静かな部室に響き渡った。












「でねー、卯宮先輩凄いんだよ、書類整理まで猛スピードで終わらせちゃうの!」
「うわー、葵も見習えば?」
「そういう話をしてるんじゃないの!」


きゃあきゃあと騒ぐ一年生たちを尻目に、二年男子もひとところに集まる。

…しゅんと項垂れる、神童の周りに。


「…神童、まだ気にしてるのか?」
「いーじゃん、ちゃんと謝ったんだろー?気にしてもないみたいだったしさ」
「半分くらいは狩屋のせいだしな」
「そ、そうですよ。元気出してください」


そんな慰めも意味を持たず、彼はいっそう落ち込んでしまう。
思い出したのだろう、僅かに頬が赤い。

そんな我らがキャプテンに、霧野たち二年生は顔を見合わせて息をついた。


「…ったく。いつまでも落ち込んでんなよ…」
「そーそー、触れてラッキーくらいに思わなきゃな」
「な!そ、な、し、失礼だろう、そんなの!む、む…胸を、触っておいて…!」
「触った…っつか、揉んだよな」
「おもいっきり、揉みましたよね」
「うわあああー!!!」


神童は頭を抱えて声を上げる。
…確かにあれは衝撃的瞬間だった。

那月が彼を抱き寄せた時点で衝撃的だったわけだが。


「まあ…不可抗力だって…」
「そんな理由で同じクラスの気まずさが片付くか!!」
「知るか!!」


そんな理不尽な怒りをぶつけられても困る。大体彼女が許したのだから、気にする必要もないはずだ。


「おや、僕の話かな?」
「ほうあっ!!」


噂をすれば影、いつの間にやら背後に立っていた那月に、五人はビクリと肩を震わせた。


「すまない、驚かせてしまったね…」
「や、別にいいけどよ…つーかお前それ男モノの制服だろ」
「ああ、恥ずかしいことに女子制服は全く似合わないからね」


なるほど納得、…じゃない、剣城や水鳥の改造制服といい…自由すぎるだろうこの学校。


「ん?どうしたんだい神童くん。顔が赤いよ」
「い、いや別に!」


あたふたと慌てふためく神童に疑問符を浮かべながらも那月はそうかと言って受け流す。


「さあ、暗くならないうちに帰りなよ」
「あ、ああ…」


それはこっちの台詞だろうと言いたくなるが、まあ昨日の身体捌きを見る限り、そんじょそこらの変質者なんかに負けるような心配はいらないように思える。


じゃあまた明日、と別れを告げようとしたとき、ピンと何かに思い当たったらしい浜野が口を開いた。


「な、卯宮!これからさ、ラーメン食べに行かね?」
「ラーメン…?」


ぱちくりと目を見開く那月。

それは他の二年メンバーも同じことで。


「おい浜野、聞いてないぞ」
「んー今考えた!いーじゃん、親睦を深めるためにもさ!」


確かに悪い提案ではない、そう思って恐る恐る彼らは那月を見る。


「そうだね、じゃあ…ご一緒させて貰おうかな」


この瞬間、神童の顔色が更に悪くなったのは言うまでもない。



 

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