Short Stories

□律儀な君はシンデレラ
1ページ/2ページ

カツカツ、とヒールの音が路地に響く。
街灯が不安定な光を照らす中、奈々は腕時計に目をやり、それからまた一段と歩く速度を速めた。


「ああ、もう12時過ぎちゃうよ・・・」


宮田と付き合い始めてから、初めて迎える誕生日。
数ヶ月前からあれやこれやの企画を考えてはいたものの、夏休みの最終週にあたるこの日は、イベント屋の奈々に取っては大変忙しい時期にあたり、結局はこんな時間までロクに連絡も取れない有様だった。


宮田の性格上、誕生日をウキウキと待ち構えたり、何かを過剰に期待したりしないのは分かっていたものの、それとこれとは話が別である。ようは自分が単に、愛する恋人の誕生日をその当日に祝いたい、そういう自己満足やエゴに近いのだが、奈々は刻一刻と進む秒針を気にしながら、相変わらず忙しい仕事を恨むかの様にため息をついた。


宮田のアパートの前に着くと、すでに宮田の部屋の明かりは消えていた。
相手は朝5時ごろから起きてロードワークをするようなアスリートである。
当然のこととは分かっていながら、奈々はガックリと肩を落とし、入り口の前でうなだれた。


「宮田くんのことだから、別に誕生日当日じゃなくても、とか今度でいい、とか言うんだろうなぁ」


手にぶら下げた紙袋をチラリと見てから、また宮田の部屋を見上げる。
時計は11時55分を指している。
こんな時間にメールを出しても、相手の睡眠を邪魔するだけだ、奈々はそう思って、しばし部屋を眺めた後にその場を立ち去ろうとした。



するとその時突然、宮田の部屋の明かりが灯った。
何事かと、部屋を間違えたかと思わず見入る。

やがて、アパートのロビーから、誰かがやってくるのが目に入った。



「み、宮田くん・・・!?」
「やっぱり来たか」


今まで寝ていたのだろう、やや不機嫌そうな面持ちで、宮田が言う。


「どうして・・・?っていうか、寝てなかったの?」
「寝てたよ」


口元を隠して、遠慮がちにあくびをする宮田。
奈々が驚きのあまり固まったままなのを見て、ふっと笑った。


「おかげさまで、ゆっくり眠れなかったけど」


そういって、未だに目をぱちぱちと何度も見開きしている奈々を、宮田はゆっくりと抱きしめた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ