Short Stories

□ポジティブスマイルマン
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「はぁ」

模試の結果を見ながら、奈々はため息をついた。
判定はDランク。まだ春だしこれからこれから!と思いながらも、突きつけられた現実は重い。

「奈々、なに見てんの?」

背後からひょっこりと、板垣が首を伸ばす。

「模試の結果」
「へぇ、奈々は国立狙いなんだ」
「まぁね。学はボクシングの推薦狙うんだっけ?」
「推薦っていうか、引き抜きならもうたくさん来てるけど?」
「・・・ご立派ですこと」

二度目のため息をついて、模試の結果を折り畳む。
何度見たって判定は変わらない。
憂鬱な雰囲気の奈々とは対照的に、板垣は至って暢気な表情を浮かべている。

「あんたって、悩みなさそうでいいわね」
「うーん、悩み、ねぇ」

すると板垣がしばし頭をかしげて考え事をするので

「あるの?悩み」
「無いよ」

奈々の言葉に、板垣はケロッと笑って答える。
肩すかしを食らった奈々は、呆れたように

「じゃあなんで今"うーん"とか唸ってたのよ?」
「何か悩みとかあったっけなーって考えてた」
「で、無かったんだ」
「無かったね、わはは」

板垣はいつも明るくて、いつも笑っている。
成績はそこそこだけれど、運動神経は抜群で、いつもクラスの中心にいて、みんなを笑顔にする。
お調子者、という言葉がふさわしい男だ。

「でもさ、学って一昨年も去年も、同じ人に負けてるよね?」

板垣は同じ相手に2度負け、2度もインターハイ制覇を逃している。
普通の人間であれば、それは大きな悩みとなるはず。

「今井ね・・・ホント、次こそは絶対に勝つ!」

板垣は拳を握りしめて、キッと目を鋭くしてみせた。

「・・・勝てなくて悩んだりしない?」
「うーん」

板垣はまたしても首を傾げて、しばし考えた後

「しない!」

と笑った。

「どーして?」
「悩んでどうするんだよ?」
「・・・そうだけど」

板垣の簡単な受け答えに、奈々は言葉に詰まった。

「ボクだって、そりゃ悔しいよ。2度も負けてさ。自分に腹も立つ」

机の上に座っていた板垣は、ひょいと飛び降りて、ファイティングポーズを構えた。

「でも、悩んだって強くならないから」

それから目の前に拳を2〜3度突き出して、

「ただ練習する。どうして負けたのか考えて、勝てるように練習する。悩んでるヒマなんて無いよ」

そうして、突き出した拳を引っ込めてファイティングポーズを解くと、板垣は満面の笑みで

「だから奈々も練習練習!」


超ポジティブ思考の板垣から半ば無責任にも受け取れる慰めを受け、奈々はなんだか自分の悩みがバカバカしく思えて来た。
ニコニコと笑みを浮かべる板垣に、釣られるように笑う。

「練習、っていうか勉強ね」
「そ、勉強勉強」
「よし、次の模試も頑張ろう」
「もしダメでも、模試だから大丈夫!」
「・・・なにそれ、ギャグのつもり?」

板垣は満面の笑みを浮かべて頷いた。

おわり


2011.3.27 高杉R26号 SCRATCH様主催「Power of Dream」投稿作品。
明るくてポジティブな板垣くん。
軽そうに見えて、実は真理をズバっと言い切ってしまうところがいいですよね。
前向きに、やるべきことをやろう!
板垣といると、そんな気持ちになれるんじゃないかなと思います。

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