長編「TENDERNESS」

□17.優しい嘘
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「日曜日」


宮田がボソリと呟いたので、奈々はまた教室内に目を戻した。


「見に行くんだろ?」


言わんとしているのは、木村の試合のことである。奈々は静かに頷いて、思い出したように


「宮田も行くの?」
「ああ」
「じゃ、一緒に見ようよ」


奈々が笑ってそういうと、宮田はつまらなそうに目を閉じて「別にいいけど」と呟いた。






翌日。


奈々は昨日のお礼に、宮田に牛乳をあげようと購買に向かった。
普段、弁当を持参している奈々は滅多に購買に行くことはない。
2時間目の終わり、購買は昼休みの弁当を注文する学生で賑わっていた。


自動販売機で牛乳を探してみたが、イチゴ牛乳、バナナ・オレ、オレンジジュースなどはあるものの、肝心の牛乳は売っていない。
売り切れではなく、最初から自販機では販売していないようだ。
購買の店員に聞いてみると、奥のクーラーから牛乳を差し出してきた。
奈々は100円玉を店員に手渡し、牛乳を受け取って、しばし考えた。


「間違って買っちまったから」


と宮田は言っていたが、そもそも牛乳は自販機に売っていない。
そして毎日牛乳を飲んでいる“牛乳王子”宮田が、それを知らないはずがない。


ひょっとしたら宮田は、わざわざ自分のためにイチゴ牛乳を買ってきてくれたのだろうか?
自分を、元気づけるために?


「・・・カッコつけちゃって」


奈々はしばし考え、買ったばかりの牛乳にストローをさした。
それから、あっという間に飲み干して、購買の隅にあるゴミ箱にパックを捨てた。
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