長編「TENDERNESS」

□15.シンクロ
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いきなり自分の名前が出てきたことに奈々は驚き、思わず声をあげそうになった。
しかし、話の流れ的に今顔を出してはいけないような気がして、隠れるように壁にもたれて様子を伺う。


「付き合ってねぇよ」
「でも、抱き合ってたの見たっていう人もいるし・・・」
「見違いだろ」


宮田はつまらなそうに吐き捨てて、女の子の横を通り過ぎ、奈々の居る方へ歩いてきた。
奈々はとっさに、更に奥へと身を潜める。


「どうして?」


女の子の言葉に、宮田がピタリと足を止める。


「どうして、私じゃダメなの?どうして、高杉さんなの?」
「・・・だから、付き合ってねぇって言ってるだろ」


宮田はあからさまに苛立った様子で、珍しく声を荒げた。
すると女の子は、小さな声を震わせながら、


「だって宮田くん、高杉さんのことが好きなんでしょう?」


奈々は心臓が跳ね上がるような心地がした。
二人とも、自分がここにいるなどと露にも思っていないはず。
奈々は宮田が自分を好きなはずがないと分かっていた。
それなのに、改めて他人から突きつけられた疑問に、宮田がどう答えるのかと些か緊張しはじめた。


「そんなの考えたことねぇよ」


と言って、興奮を抑えるように目を瞑りながら、奈々に気付くことなく通り過ぎていった。


女の子はしばしその場に立ちつくしていたようだったが、その後、宮田とは逆の方向に去っていった。
すっかり人の気配が無くなったのを確かめてから、奈々は改めてゴミ袋を担ぎ、焼却炉へ放り込んだ。
一仕事を終えて、ふうっと息を整える。
辺りには誰もいなくて、遠くから下校時の喧噪が聞こえてくるだけだ。










「どうして、私じゃダメなの?」




それは自分が木村に対して思っていることと同じだ。
宮田は何も悪くないし、自分との関係を誤解されて苛立つ気持ちも分からなくはない。




いっそのこと、宮田を好きになればいい?
確かに宮田とは仲良くしているけれど・・・
殆ど、たっちゃんの話しかしてない。


宮田だって、私のこと好きだなんて考えたこと無いって言ってる。
確かにお互い、そんな感情を持ったことは一切無い。
そんな私たちを、勘ぐられても困るのに。




あの子は私に嫉妬している。
私は、彼女に嫉妬している。


あの子は宮田の側にいたい。
でも側に居るのは、私。
私はたっちゃんの側にいたい。
でも側に居るのは、彼女。




「どうしてこう、うまくいかないのかねぇ」




独り言は、蝉の大きな鳴き声にかき消された。
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