長編「TENDERNESS」

□14.チェックメイト
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「お、妹ちゃんではないか」

ロードワークの途中で、奈々はいきなり声を掛けられた。
驚いて振り向くと、そこには汗だくになった鷹村が立っていた。

「鷹村さん!びっくりした、こんなところで会うなんて」
「ぬ。ここはオレ様のロードワークのコースだ」
「そうなんだ・・・私、そこの本屋に行った帰りなの」
「そうか。ところで・・・」

鷹村はゴホンと咳払いして、それから嬉しそうに

「木村に彼女が出来たらしいな」

と言った。
奈々は突然のニュースに、身体が凍り付いたような気がしたが、すぐさま平然を装って

「へぇ・・・たっちゃん、あの娘と上手くいったんだぁ。良かったじゃん」

と笑った。

「良かった、だとォ!?オレ様は納得がいかねぇ!!妹ちゃんもそうであろう!?」
「納得も何も・・・たっちゃん、モテるみたいだから」
「それが納得いかねぇ!!なぜオレ様の女はことごとくホテルの前から逃げるのだ!?」
「わはは、それは災難だねぇ」


鷹村のコミカルな怒りに、奈々は平然を装って笑った。
そうして、その笑みが崩れないうちに、奈々は鷹村の前を去ることにした。

「んじゃ、またね、鷹村さん!」
「おう、気をつけて帰れよ」
「うん」

鷹村から見えなくなるまで、いつもの調子で自転車を漕いだ。
それから、だんだんと漕ぐスピードが速まる。

少しでも気を抜けば、涙で前が見えなくなる。




たっちゃんに彼女ができた。
たっちゃんに彼女ができた。
たっちゃんに彼女ができた・・・




息切れするほどに、自転車を漕いで、
風という風が全てを吹き飛ばしてくれるまで、漕ぎ続けた。
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