長編「TENDERNESS」

□13.避難先
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一番上まで上ったところ、ちょうど屋上への扉の前で奈々はくるりと振り返った。
宮田はさほど驚いた表情を浮かべていない。
今更奈々が報告しなくても、全てを分かっているような顔をしていた。

「・・・宮田」
「だから、なんだよ」

宮田は面倒そうに聞き返したものの、奈々が目に涙を溜めていることに気付き、次の言葉を失った。

「・・・宮田ぁ・・・」

ポロポロと、涙が奈々の頬を伝う。
奈々はそれを両手で拭いながら、これ以上涙が出ないように必死に堪えていた。

「どうしたんだよ」

初めて見る奈々の弱々しい態度に、宮田は少し困惑しながら尋ねた。
自分をわざわざこんなところへ連れてきたということは、弱音の一つでも吐きたいのだろうと思ったからだ。

「・・・たっちゃんにね・・・」
「うん」
「フラれたよ・・・」
「・・そっか」

階段の下の方から、騒がしい声が聞こえてきた。
この踊り場は死角になっているが、いつ誰が来てもおかしくない。
わざわざこんな場所まで連れてきて泣き出すということは、奈々はきっとこの姿を誰にも見られたくないのだろうと、宮田は思った。
屋上へのドアは鍵がかかっているし、今この状態で階段を下りるわけにも行かない。

宮田は仕方なく、奈々の姿を隠すように、抱きしめた。

「・・・う・・・・うっ・・・」

途切れ途切れに聞こえる、奈々の鳴き声。
声を殺そうとして必死に耐えている様子が、背中に回した腕を通じて宮田にも伝わってきた。

「気の済むまで泣けば」

宮田がそういうと、奈々は両手にギュッと力を込めて、宮田の胸に頭を埋めた。

人を好きになったことがない宮田には、奈々の気持ちがどれほど辛いものなのか想像がつかなかった。
いつも生意気で、やや勝ち気な奈々が、これほどまでに憔悴し、普段憎まれ口を叩いている相手の前で大泣きする。

失恋の痛手というのは、そこまでの悲しみをもたらすものなのだろうか?

自分とは違う、細くて柔らかい身体の感触に、心が少し戸惑う。

何も考えないように、宮田はただ屋上へ続くドアの隙間から零れる光を見ていた。
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