長編「TENDERNESS」

□12.明白な答えを
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「奈々!」

名前を呼ばれ振り向くと、木村が遠くから息を切らして走ってくるのが見えた。


「たっちゃん、どしたの?」
「いや、最近この辺も物騒だからよ。一緒に帰ろうぜ」


木村と並んで歩くのは、先日のショッピング以来だ。
まだそれほど時間も経っていない。
木村の手を見る度に、あのときの感触を思い出しそうになる。

外はまだ薄暗い程度で、それほど危ない雰囲気はない。
夕食時なのか、家族連れで歩く人も目立つ。
自分たちはどう見えているのだろうか?
単なる兄妹のようにしか見えないのだろうか?
そんなことばかり浮かんでは消えていく。


「たっちゃんって案外モテるんだ」


先ほどの青木の話題を受けて、奈々はボソッと呟いた。
すると木村もボソッと「モテねぇよ」と返す。


「でも、今良い感じの子がいるんでしょ」
「ん?」
「映画の子」
「・・・あぁ・・まぁ・・」


知らない女の人が、木村の隣に居るのを想像する。
自分でも驚くほど、胃の中から熱くなるような嫉妬を感じた。
片や10年以上も片思いをしている自分と、合コンとかいう軽薄なイベントで出会っただけの女性。
好きな気持ちは誰にも負けないのに、どうして彼は後者を選ぶのだろう。


「私もたっちゃんのこと、好きだよ」


奈々は震える拳を悟られないように、ギュッと握りしめて言った。
その言葉を聞いて木村は、からからと乾いた笑いを浮かべながら


「おー、オレもお前が好きだよ」


と答えた。
余裕のある口ぶりながらも、木村は絶対に奈々の方を見ようとはしない。


「はぐらかさないでよ、私、真剣に言ってるのに」
「・・・今日はエイプリルフールだっけ?」


またも乾いた笑いを浮かべて、木村はサラリとかわすように答えた。
奈々は心底頭に来て、木村のシャツの袖をグッと引っ張って声を荒げた。


「いい加減にしてよ!ずっと前から気づいてたくせに!どうしてそうやって誤魔化すの!?」
「ご、誤魔化してねぇよ!」
「嘘!たっちゃんのことなら何でも分かるもん!ずっとずっとはぐらかしてたじゃん」


シャツを掴む手が震える。
語尾が涙声になっているのが、自分でも分かった。


「・・・だって、しょうがねぇだろ」


木村が辛そうにうなだれて、小さな声で呟いた。


「お前はオレにとって、小さい頃からずっと可愛がってきた大切な妹なんだ」



結果なんて、とっくに分かっていた。



「オレ、お前のことは本当に好きだよ。でも・・・どうしても妹にしか思えない」



曖昧な態度は、この残酷な瞬間を遠ざけるための優しさだって知ってた。



「ごめんな・・・奈々」


木村は少し頭を下げて、そのまま黙ってしまった。
シャツを掴む奈々の手は、徐々に力を失い、スルリと滑るように落ちていく。


「・・・わかってたよ。たっちゃんの気持ちくらい」


絞り出すような声で奈々が呟くと、木村はようやく顔を上げて奈々を見つめた。
奈々の瞳に涙が溜まり、今にもこぼれ落ちてきそうな表情をしていた。


「でも、きちんと伝えたかった。分かってほしかった。・・・それだけ」
「・・・うん・・・分かった・・・ありがとな・・・」


少しの静寂の後、奈々はいたたまれずにその場から走り去った。
木村はその影を追うことができず、ただずっと立ちつくすしかなかった。
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