長編「TENDERNESS」

□04.打算と反撃
2ページ/2ページ

「とにかく面倒なんで自分でやってください」
「・・・・頼むよ宮田ぁ」
「会いたくない理由でもあるんですか?」
「あるわけねーだろ!い、家まで返しに行くのが面倒くせぇだけだよ」
「ロードワークだと思えば?」
「・・・ああ、そうだな!」


宮田の見透かしたようなセリフに、木村は珍しく苛立って答えた。



中学に上がってから高校1年までの約4年間。
ヤンキーだった頃は、奈々とは昔ほど遊ばなくなっていた。

ボクシングを始めて、プロになって、世間で言う「落ち着いてから」ようやく、再び奈々とよく会話するようになった。
そこで木村は、なんとなく奈々の自分に対する態度が昔のそれと違っているように感じ始めた。
というよりはむしろ、昔と違うことを確信していた。

昔からよく懐いていてくれたことには変わりない。
ひょっとしたら受け手側のこっちが、ちょっと自意識過剰になっているのかもしれない。
けれども、可愛い妹としか思っていなかった子供が自分を男として見ている可能性に、心が対処しきれないのだ。


「ところでよ、宮田」
「なんです」
「アイツ、学校では真面目にやってるか?」
「・・・父親みたいなこと聞くんですね」
「せめて兄貴って言えよな!」


面白く無さそうに答えた木村を見て、宮田は小さく笑みを浮かべ


「まぁ普通にやってるんじゃないですか」
「なんだよそれ」
「あんまり気にしたことがないもんで、報告しようがありませんね」
「・・・・そうかよ」


宮田は滅多に他人に感心を寄せない男だというのを、木村はうっかり忘れていたらしい。

自分に対する奈々の気持ちを宮田の方に逸らせよう、なんて木村は卑しいことを考えていた。
奈々の気持ちに答えられない自分の罪悪感みたいなものを、どうにか誤魔化したいというだけの理由で。
しかし宮田はそもそも恋愛に全く興味がないという特殊な人間であるばかりでなく、洞察力も高いため、こっちの打算はすぐに見抜かれてしまった。
逆に「高杉は学校でも木村さんの話をよくしてますよ」なんて意地悪なアピールすら喰らったほどで、木村はダシに使う相手を間違えたと悟った。

それから特に何を言ったりしたりするわけでもない宮田の「無関心攻撃」が、木村には辛かった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ