長編「TENDERNESS」

□35.TENDERNESS
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「面白かったね、映画」
「ああ・・・」
「でもまあスティーブン監督には敵わないかな」


人の多い駅前通を、手を繋いで歩く二人。
今日見た映画は普通のSFモノではあったが、それなりに楽しめたらしく、足取りは軽い。


「ところで宮田って、なんでスティーブン監督のファンになったの?」


奈々がなんとなしに聞くと、宮田はしばし考えてから


「親父と初めて見に行った映画が、スティーブン監督だったから」
「へぇー、そうなんだ」
「それまで親父、ちょっと荒れてて・・・」


それから宮田が少し口籠もったので、奈々が少し首をひねって不思議そうな顔をすると、


「まぁそれで、余計に嬉しかったってのもあるんだ」
「荒れてたって何?」


言葉を濁したにも関わらず、そんなのお構いなしにズケズケと聞いてくる奈々に宮田は驚きつつも


「酒乱だったというか・・・・」


思いがけない言葉に、奈々が固まる。
それから、ふぅっと深い溜息をついて、落ち込んだ表情をありありと浮かべながら


「私・・・本当にダメだよね」
「何がだよ?」
「聞いちゃいけないことってあるよね」
「・・別に・・・」
「あー、ホント、私って優しくないなぁ・・・」


しょぼくれた奈々を横目に見ながら、宮田はポンポンと頭を叩いて、


「お前のそういう素直なところで救われるヤツもいるよ」


と言って、軽く微笑んだ。


奈々は再び宮田の手を握り、腕を絡ませて言う。


「優しいね、宮田」


すると宮田は、そっぽを向いてこう言った。


「お前よりはな」



駅前の大通りに、宮田の背中をバチンと叩く音が響いた。



END

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