長編「TENDERNESS」
□34.お節介な連中
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「みんなぁ〜!!今日、宮田が童貞を卒業したらしいぞ〜〜!!!」
「・・・ッ!!・・何言って・・」
「おめでとう、宮田ぁ〜!!」
「ちょっ・・・止めろバカ野郎!!」
宮田は持っていたカバンをその辺に投げると、鷹村に覆い被さるようにして口を塞ごうと手を伸ばす。
鷹村は嬉しそうに応戦し、宮田の攻撃をかわしながら「チェリーボーイの卒業」という自作の歌を大声で歌い始めた。
「アンタな、悪ふざけもいい加減に・・」
「無視するからよォ。ちゃんと話してくれたら言わないぜ?」
「ちゃんと話したところで、どうせ止めないだろうが!」
「オレ様を甘く見んなよ?こう見えても口は固いぞ」
どの口が言うんだ、と宮田は内心ツッコんだ。
「告白ったのか?ん〜?なんだ、恥ずかしくて言えないのか?」
宮田は鷹村に両手首をつかまれ、マウントポジションを取りつつも劣勢にいた。
観念したのと、安い挑発と雖も腹立たしい台詞に我慢がならないのとあって、宮田はとうとう言い返した。
「言ったよ」
「ほぅ。で?」
「で、何?」
「OKだったのか?」
「そうだけど」
鷹村と宮田は睨み合ったまま、互いに半笑いの状態でピタリとも動かなかった。
体格と腕力の差はあれど、気の強さは互角らしい。
「キスしたのか?」
「さぁ?」
「セックスしたか?」
「するわけねぇだろ!」
鷹村はしばし、じぃっと宮田を見つめながらニヤニヤと心底愉快だと言わんばかりの顔をしていた。
照れて赤くなった宮田など見るのは初めてで、それがどうにも嬉しいらしい。
一方で宮田は、屈辱にも似た感覚を味わっていた。
しばらくして鷹村が急に身体を起こしたので、上に乗っかっていた宮田は思わずバランスを崩しそうになった。
一瞬の隙を突いて鷹村の両手をふりほどくと、宮田はさっと立ち上がり、距離を取る。
同じく立ち上がった鷹村を威嚇するように目線を外さないで居ると、鷹村は笑って
「じゃあ次はセックスしたら言えよ」
「誰が言うか」
「ま、今日はこのくらいで勘弁してやらぁ!!」
そういってバンバンと宮田の肩を叩き、口笛を吹きながらロッカー室を去っていった。
着替えも途中だというのに、一体何処に行くのかと思ったが、宮田はそのまま荷物を持って1階へ降り、そしてまだ残っている練習生たちに「お疲れ様でした」と挨拶をしながら、ジムを後にした。
すっかり冷え込んだ夜の空気を感じながら家路につく。
面倒なことになった、と大きく溜息をつきながら、明日のスパーリングでは木村をボコボコにしてやろう、と1人笑みを浮かべた宮田だった。
しばらくして、父親が帰宅したらしい。
ガチャンとドアの開く音がしたので、自室にいた宮田は、階段を下りて玄関の様子を伺った。
「父さん、遅かったね」
「ん?・・ああ」
父親はそういってリビングまで行き、床にドサッとカバンをおろした。
「オレ、もう寝るから」
そういって宮田が自室に引き換えそうとした時だった。
「あ、一郎」
「・・なんだい?父さん」
「鷹村から、預かりモノだ」
「預かりもの?」
そういって父親は、カバンから取り出した紙袋らしきものを投げて寄越した。
宮田はそれをキャッチすると、その場で中身を確認し・・・・
「okamoto」と書かれた文字を見るやいなや、紙袋ごと握りつぶした。
「一郎」
それを見ていた父親が宮田に話しかける。
「何・・・?」
「む、その、なんだ・・・」
父親はゴホンと咳払いをし、
「遊びすぎるなよ」
そういって、照れたようにキッチンの奥へ去っていってしまった。
自室で宮田は、ぐちゃぐちゃになった紙袋をゴミ箱に捨てて、ベッドに倒れ込む。
「気が早いんだよ、バカ野郎」
さんざんな目に遭い、憎まれ口を叩きながらも、不思議と笑みがこぼれてくる。
色々なことがあった疲れか、気がつくと宮田は眠りに落ちていた。