長編「TENDERNESS」
□31.作戦決行
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放課後、いつも通りまっすぐジムにやってきた宮田。
トレーニング室を抜けて2階のロッカーに上がると、木村が椅子に座ってシューズを履いているところだった。
「こんちわ」
「おう」
宮田は自分のロッカーを開け、着替えを始めた。
またしても、木村に背を向ける格好だ。
背後でキュッキュッと、木村がステップを踏む音が聞こえる。
靴も掃き終えた事だし、もうすぐに出て行くだろう、と思った矢先のことだった。
「宮田ぁ」
背後から木村に声を掛けられたが、宮田は振り向きもせずそのまま「何ですか」と答えた。
「オレさ、奈々と付き合おうかと思ってんだよね」
「・・・そうですか」
「ま、別に好きじゃないんだけどさ」
木村はわざと挑発するような単語を選んで宮田を駆り立てようとしたが、宮田はいまだに振り返らない。
着替えをしながら、気持ちが悪いほど冷静な様子で
「わざわざオレに言うことですか」
と呟いた。
「だってお前、奈々が好きなんだろ」
「別に」
「ふーん。そっか、好きじゃねぇんだ」
それから木村はにっこりと笑って
「じゃ、オレと一緒だな」
と言った。
木村は本来こういうことを言うタイプではない、宮田にはそれがよく分かっていた。
何の目的で挑発を繰り返すのかと考えてみたが、どうせ自分に「奈々が好きだ」と言わせるだけのくだらない趣向だろうと、宮田は内心若干苛立ちながらも冷静を装った。
しかし宮田も、挑発されっぱなしで黙っているほど穏やかな性格ではない。
「好きでもないのによく付き合えますね。オレは絶対無理」
軽蔑を込めた口調でそう言い返すと、
「んー?だって、奈々がそう望むからさ。オレ、優しいからよ」
「へぇ、ご立派で」
「それで奈々が幸せになるんだったら、好きなフリでもしてやろうかなーって。オレ、優しいからよ」
いい加減しつこい挑発だ、と宮田はそこで初めて木村の方を振り返った。
鋭い目つきで睨まれ、木村は内心、一瞬たじろいだ。
「さっきから、何が言いたいんです?」
「ん?オレって優しいだろ、って事」
「バカじゃねぇの」
そういってまた宮田は木村に背を向け、着替えを続ける。
すると木村は、その背中に向かって呟いた。
「お前も優しいよな」
宮田は返事をしない。
「奈々が幸せになるんだったら、って嫌いなフリしてんだろ?奈々はオレが好きだから、邪魔しないようにって」
着替えを終えた宮田は、脱いだ制服をロッカーに仕舞い込んで、カバンから靴を取り出した。
そうしてベンチに座り、靴を履く。その間、返事もせず、振り向くこともない。
「惚れた女の幸せを見守るだなんて泣かせるねぇ。そういうわけで、お前の優しさを見習って、オレもあいつを幸せにするために、好きなフリすることにしたっちゅーわけよ」