長編「TENDERNESS」

□27.もしも
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保健室に着くと、宮田は怪我の経緯を一通り保険医に説明した。
ボールの当たった所は少し腫れ出していて、奈々はそこをアイスで冷やしながら、ベッドに横たわった。
当たった場所が場所なだけに、保険医も奈々の自宅に電話し、迎えに来てもらった後に病院に連れていくよう話をしていた。
じわじわと痛むものの、単なるたんこぶ程度のものとしか思えない奈々には、なんだか仰々しいやりとりのような気がしてならなかった。


「高杉」


ベッドの横に宮田が腰掛けて、ぼそりと呟いた。


「ごめん」
「・・・何が?」
「別に狙って打ったわけじゃねぇけどよ」


奈々が自分で抑えていたアイスを、宮田がそっと抑えて続ける。
手と手が重なって、奈々は心臓までもが冷やされる思いがした。


「まさかボケーッと余所見しているなんて思わなかったから」
「・・・失礼ね」
「怒ると頭に血が上るぜ」
「うるさい!」


奈々は自分の手をアイスから離した。
宮田がアイスを抑えてくれているおかげで、打撲部分にしっかりと固定されている。

グラウンドから、試合の歓声が再び聞こえ始めた。
それがやけに遠いものに感じられる。

宮田がじっと奈々の顔を見つめているので、奈々は気恥ずかしさのあまり目を閉じた。
打撲の痛みはアイスのおかげで少しずつ治まってきている。

熱で氷が溶ける度、宮田が抑える位置を正してくれる。
顔全体が熱く感じるのは、きっと打撲のせいだけではなさそうだ。



「ごめんね、宮田」
「なにが?」
「面倒なことになって」


再び目を開けると、すぐに宮田と目が合った。
宮田は真剣な顔をしたまま、


「面倒なことって?」


宮田は自分の打ったボールが奈々に直撃したことに対し詫びていたが、一方で奈々は、自分の不注意で勝手にファウルボールを喰らったことを反省していた。
そもそも余所見などしていなければ避けられたはず。
宮田に余計な心配や保健室の付き添いをさせて、奈々は申し訳ない気持ちになっていた。


「私のお守り」


その気持ちを、少しふざけた言い方で表してみると、宮田もそれを汲んでくれたらしい。
少し微笑んで、ふっと目を瞑った。


「いつもだろ、そんなの」


奈々も、いつもの宮田節を聞いて安心したのか、笑って答えた。


「ばーか」



それから奈々は、目を閉じて、気がつくと眠ってしまっていたらしい。
おぼろげな意識の中で、アイスが何度か位置を変える音が聞こえた。


宮田は自分のことを「好きじゃない」と言った。それに「利用した」というような冷酷な言葉すら放った。
けれども、その言葉と矛盾するような優しい態度を取られると、奈々は好きな気持ちがますます募って抑えられなくなる。
そして、互いに憎まれ口を叩きながらも、どこか心の通じ合ったような会話をする度に、勘違いしそうになる。


もし仮に、宮田が自分のことを好きだとして。
まだ自分が木村のことを好きだと思っていて、それに遠慮しているとしたら・・・・

そんな図々しい計算式すら浮かんでくる。

そしてすぐさま、宮田は遠慮なんてする男ではないと思い直し、過度な期待をせぬように意識を奥へと引っ込めるのだった。
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