長編「TENDERNESS」

□25.永遠の絆
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「な、な、なんで…!」
「違うのか?」
「わ、私、たっちゃんが好きなんだよ?」


顔を真っ赤にしながら奈々が反論する。しかし木村は表情を変えることなく


「じゃあオレと付き合う?」


木村が意地悪そうに笑う。
冗談だと分かり切った交際の申し込みにも関わらず、奈々の脳裏には正直にも別の男が浮かぶ。


その様子を見逃さない木村、突然だはははと笑って




「昔なら即答したろ?」
「う…ずるいよ、今更そういう冗談…」
「で、誰のこと考えてたんだよ?」
「だ、誰って…」




しどろもどろで答えに詰まる奈々。じいっと見つめる木村の目線に、もはや隠し事は出来ないと悟った。




「しかし宮田かぁ…やるなぁ、あいつも…」


再びカップを持って、コーヒーを一口すすって木村が言った。


すると奈々は、パフェをすくう手を止めて、ちょっと考えてから、


「・・・でも宮田は私のこと好きじゃないんだって」
「…え?」


奈々の言葉に、木村は驚きの声をあげた。むしろ、宮田の方が奈々に好意を寄せていると思っていたからだ。


「告白してフラれたのか?」
「いや、違うけど・・・そう言われた」
「ふぅん・・・」


木村はそれから、何かを考えるかのように頬杖をついて窓の外を眺めた。
奈々は残りのパフェをスプーンで掻き出して完食すると、ダージリンを一口すすって、深呼吸した。


「男心って難しいね」


独り言のように奈々が呟くと、木村は再び顔を奈々の方向に向け、ちょっと笑いながら答えた。


「女よりは単純だぜ」
「うそぉ?」
「好きな女の幸せを一番に考えるのが男ってもんよ。女の笑顔は男の喜び、単純だろ?」
「・・・よくわかんない」


もしそれが男の喜びなのだとしたら、自分から笑顔を奪っている宮田は、自分の幸せなど考えてもいないのだろうと思った。
そんな風に考えてしまう自分は、自分のことしか考えていない嫌な人間だな、とも思う。


1人あれこれと思案する奈々を前に、暮れかけた空を見て、木村が伝票を手に取った。


「そろそろ行くか」


昔、ショッピングをした時の帰り道も同じような夕暮れだった。
長く伸びた自分たちの影を見ながら、そっと手を握ったあの日。


今はそれが遠く昔のことのように感じられるくらい、心が落ち着いている。


「ねぇ、たっちゃん」
「んー?」


木村は暖かな空気を吸うように、顔を空に向けながら答えた。


「私、たっちゃんのこと好きで良かったよ」


奈々がそういうと、木村は空を向いたまましばし固まって、


「・・・オレも、好きになってくれてありがとうな」


と言い、奈々を見つめて微笑んだ。
それから少し照れくさそうに頭をガシガシと掻いて、再び歩き出す。


「今も大好きだよ」
「宮田の次にか?」


茶化して笑う木村の背中をバシンと叩いて奈々が言う。


「たっちゃんは特別だから」


すると木村は、奈々の頭をくしゃくしゃと撫でた。
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