長編「TENDERNESS」
□24.同じ感情
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「た、たっちゃんと?」
「今フリーなんだろ?木村さん」
「そうだけど・・・」
すると宮田は、小さく溜息をついてつまらなそうに、
「オレのこと誘ってる場合じゃないだろ」
と言って、また机に伏せてしまった。
ちょうどチャイムが鳴り、廊下に出ていたクラスメイト達がバタバタと教室に戻ってくる。
奈々は貝のように心を閉ざしてしまった宮田をしばし見つめていたが、やがてくるりと背を向け自分の席へ戻っていった。
先日また席替えがあって、宮田とは席が離れてしまった。
運悪く宮田は一番前、それも教壇の真ん前という席になり、奈々は窓側に近い後方の席になった。
授業中に居眠りをするわけにいかなくなった宮田は、最近休み時間はずっと寝ているようになった。
ボクシングの練習も、来年のプロデビューに向けてもっとハードになってきたのかもしれないが。
授業が始まったが、奈々はいつになく上の空だった。
黒板を見る度に、宮田の後ろ姿が目に入る。
宮田に断られることは、想定していた。
宮田は忙しいし、趣味も偏ってそうだし、なんて理由を100ほど並べていた。
けれども実際に断られてみると、心に楔を埋め込まれた様に、じわりじわりと内出血しているような鈍痛が胸を襲う。
伏せてしまった宮田からはどんな表情も読み取れなかった。
そして相手もまた、そんな状態で自分の表情など読み取ってくれるはずもない。
何を考えているか分からない後ろ姿に、奈々はますます胸が苦しくなる。
奈々は、豹変したとも取れる宮田の態度に、改めて今まで自分がいかに彼に甘えていたかを思い知らされた。
しかし、なぜ急に態度を変えたのかは分からない。
自分のことは好きじゃないと言った。
木村の話もしていいと言った。
けれど、自分が宮田自身に関わることは許してくれなくなった。
いったい、なぜ?
そう考えている内に、奈々は自分の心を確信した。
もっと宮田と一緒に居たい。
もっと宮田と話がしたい。
もっと宮田のことを知りたい。
それはかつて自分が、木村に抱いていたのと似た感情。
まさか、まさか、まさか…!!
手の震えが止まらなかった。
今にも泣き出しそうな胸の痛みと戦いながら、奈々はただ宮田の背中を見つめていた。