長編「TENDERNESS」

□22.弁解
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「悪かったな、この間」


謝られたところで、何をどう答えて良いのか奈々には分からなかった。
いつもの宮田のように、奈々は「別に」と小さな声で答えた。


「あれから露骨に避けられてるから弁解しとくけど」


宮田はそういって、ちょっと奈々を見てからまた目を逸らし、


「別にお前のこと好きじゃないから」


その言葉に、奈々はまた胸がちくりと痛んだ。
それと同時に、やり場のない怒りがこみ上げてくる。


「なにそれ」
「・・・言葉通りの意味だけど?」


宮田があまりにも平然とした口調で言うので、奈々はますます腹が立って


「ひとの・・・ひとのファーストキス奪っておいて、何それ!?」
「だから謝っただろ」


奈々の荒い口調を受け、宮田も些か声を荒げた。


「じゃ、じゃあ何で・・・・何でキスしたのよ!?」


奈々はピタリと歩みを止めて、両拳を強く握った。
宮田もまた歩みを止め、くるりと奈々の方を振り向いて言う。


「・・・したくなったから」


宮田の両目が奈々を射貫くように捉える。奈々はまた、胸がちくりと痛むのを感じた。


「ひょっとしたら遠慮してるんじゃないかと思って」
「は?」
「木村さんの話、しなくなったから」


宮田が再び背を向けて歩き出す。


「別にお前のこと好きじゃないし、木村さんの話がしたければ聞いてやるよ」


胸の痛みが止まない。
一方で宮田の背中はドンドン遠ざかっていく。
奈々は小走りで宮田の後を追った。


「ここ数日、たっちゃんのことが吹っ飛ぶくらいアンタのことで悩んでたっつーの」
「だから悪かったって言ってるだろ」


宮田は目を瞑って、心などこもってないような謝罪を繰り返した。


「今日は良かったな」
「何がよ?」
「木村さんと一緒に居られただろ」
「…まぁ、そうだけど…」




それきり、会話は途切れてしまった。


まもなく奈々の家の前に到着し、宮田に別れを告げて玄関のドアを開けた。
そうしてただいまの挨拶もそこそこに、一目散に部屋へ戻ってベッドに突っ伏した。


確かに木村と花火をしたのは楽しかったし嬉しかった、けれど…




「お前のこと好きじゃないから」




それよりも、宮田の言葉が頭から離れなかった。
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