長編「TENDERNESS」

□21.胸の痛み
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7時を迎えて、奈々は木村と共に河原へ向かった。
既に鷹村が沢山の花火を前に、ウキウキと品定めをしているところだった。
そして、その横にいる人物を見て奈々は驚愕する。
来ないと思っていた、宮田が立っていたからだ。


「よーっし!パーッとやろうぜ今日は!」


各々が好きな花火を手に持ち、走ったり踊ったり騒ぎながら楽しんでいる。
鷹村は大きな打ち上げ花火を股間に押しつけて、卑猥なギャグを飛ばしながら後輩を追いかけ回していた。

木村と奈々は比較的小さな手持ち花火に火をつけて、遠くから騒ぎを眺めていた。


「楽しいか、奈々」
「うん。花火なんて久しぶりだよ。お誘いありがとね」
「いやいや。鷹村さんがお前も誘ったらどうだって言うから」

どこかで聞いたセリフだと思ったら、前回のバーベキューの時と同じだ。
奈々は少し可笑しくなって、軽く笑みを浮かべながら


「また鷹村さんなんだ・・・私、好かれてるね」
「なんだかんだで、お前のこと気に入ってるみたいだぜ。生意気で面白いって」
「あーら、素敵な褒め言葉ね」


そういって奈々は火口を木村に向ける。
木村は「うわっ」と慌てふためいて、ボクサーのフットワークを生かして距離を取った。


「危ねぇだろバカ!」
「変なこと言うからだよ」


木村に彼女が出来てからしばらくまともに話せなくなっていた奈々だったが、ふと自分がいつもの調子で接していられることに気がついた。
彼女の存在が発覚する前、失恋する前の、男女を超えた兄妹のような関係。

どうしてだろうと考えながら騒がしい輪の方に目を遣った途端、宮田と目が合い、奈々は思わずドキリとした。
目があった瞬間、宮田は興味なさそうな態度ですぐさま目を逸らした。


その態度が、ちくりと胸を刺した。
奈々は、宮田が見えなくなるようにくるりと背を向けて、再び花火に火をつけた。
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