長編「TENDERNESS」

□20.まさか
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「・・・ごめん」
「謝らないでよぉ」
「でも・・・みんなと一緒に居て笑ってると、楽しいから」




その気持ちは本当だった。
木村の事情を何も知らない彼女らと笑って過ごす時間は、奈々にとっては大切な時間だった。




「何も考えないで、笑っていられる時間が欲しかったんだよね」
「そっか・・・」
「でも心配かけてるなんて、考えたこともなかった。ごめん」
「だから、謝らなくていいって。今後も別に聞かないし」
「言いたくなったら聞くし」
「笑いたかったらバカやるし!」




そういうと友人らは小さくガッツポーズを作り、それから顔を見合わせて笑った。


午後の授業が始まって、奈々はぼうっと友人らのことを考えていた。
そして、宮田のことも。


元気のない自分の様子を見て、何の事情も知らない彼女たちは心配してくれていた。
ということは、事情を知っている宮田は、ひょっとしたら彼女たちよりももっと心配してくれていたのかもしれない。
自分が思うより、宮田に負担をかけていたのかもしれない。




木村の話をいつも聞いてくれた。
いきなり手を繋いだときも、何も言わずに一緒に居てくれた。
失恋した時は胸を貸してくれた。
さりげなくイチゴ牛乳をくれたこともあった。
まるで興味のないゲームセンターにも付き合ってくれた。


自分の恋愛事情を一番近くで見守っていてくれたのは、他でもない宮田だった。




「気になるんだよ」




キスしたあと、宮田はそう言った。


あれは一体、どういう意味なのだろう。
奈々はふと、宮田が以前こぼしたセリフを思い出した。




「オレも・・・今なら分かるかもしれない」




自分はその前に何の話題をしていただろう?
確か・・・人を好きになった事がない男に分かるはずがない、みたいなことを言ったはず。
分かるはずがない・・・って、何が?




「どうして私じゃダメなんだろう」




その言葉を思い出した途端、ある推測が思わぬ結論にぶち当たり、奈々は反射的に席を立った。
ガタン、と音がして、クラス中の人間が振り返る。




「・・・どうしたんだ、高杉」




教師が驚きを隠しながら問うと、奈々はハッと気がついて「なんでもないです・・・」と言いながら再び席に着いた。




まさかそんなことあるはずがない、と思いながら、奈々は自分の顔が急速に火照っていくのがわかった。
斜め後ろに座っている宮田の存在が、背中を焼き尽くすかのように感じた。
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