長編「TENDERNESS」
□13.避難先
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あんな風に、辛そうな顔をさせて
私は私で、泣きはらした顔をして
手に入れたものって、何だったのだろう。
どうにもならない、という現実と
もう二度と見ることのない夢。
これでよかった、と思うには
あまりにも、あなたを好きすぎて
胸が、苦しい。
お腹が痛いと言ってズル休みをした次の日。
一日ずっと冷やしていたおかげで、目の腫れは良くなっていた。
いつもと同じ便のバスに乗って学校へ着くと、いつもと同じように宮田の寝ている姿が目に入った。
けれども、いつもと違って「おはよう」と声を掛けることができない。
女友達には一切そう言った話を打ち明けていなかったため、奈々が木村を好いていることを知っているのは、宮田だけだった。
それ故、宮田を見るだけで、悲しみのはけ口を見つけたように、すぐにでも涙が出そうになる。
黙って席に着き、カバンから教科書などを取り出しているうちにチャイムが鳴った。
それから担任がHRで入ってきたが、奈々は斜め後ろに座っている宮田が目を覚ましたかどうかは、とうとう確認できなかった。
授業が始まって、普通に昼休みを迎えた。
「奈々、お弁当食べよー」
いつもの友達が集まってきて、机をガタガタと並べ替え始める。
誰も、奈々の様子がいつもと違うことに気付いていないようだ。
だからこそ、余計なことを考えなくて済む。
さぁこれから食事というところで、奈々は箸を床に落としてしまった。
「ちょっと、洗ってくるね」
そういって、箸を持って教室を出ようとした瞬間だった。
文字通りバッタリと、教室に入ろうとする宮田に遭遇した。
朝からずっと目も合わせていなかった相手。
宮田は何事も無かったかのような顔で、何も言わずに横を通り過ぎようとした。
だがその瞬間、奈々は思うよりも先に手が動き、宮田の行く手を阻むように腕を掴んだ。
「・・・ちょっと、来て」
「なんだよ」
「いいから来て!」
宮田の腕をひっぱりながら、奈々は早足で、人の多い昼休みの廊下をすり抜ける。
そうして、屋上へ続く階段を上がっていく。
昼休みが始まったばかりということもあって、まだ誰もここには居ないようだった。