長編「TENDERNESS」
□35.TENDERNESS
1ページ/3ページ
たっちゃんはバカだ。
バカがつくほど、優しい。
後から聞いた話。
私たちのためにたっちゃんが
一芝居打ってくれたって。
宮田は話を広められたと怒っていたけど、
それってたぶん、宮田に貸しを感じさせないように、
敢えて言いふらすことで、
憎まれ役を買って出たんじゃないかって、
私にはそんな風に思えた。
そして宮田も、それを分かっていながら
たっちゃんの気持ちを汲んで、
わざと怒っているんじゃないかって思う。
なーんてね。
「おはよう」
奈々が宮田の頭上から声を掛けると、宮田はゆっくりと顔を上げて「おはよう」と返した。
それから目と目を合わせて、軽く微笑み合う。
休み時間、コトンと机に置かれたイチゴ牛乳。
「あら、また買い間違えた?」
「そんなとこ」
宮田は牛乳を飲みながら、平然とした顔で答える。
「ねぇねぇ、奈々」
「ん?」
「宮田くんと仲直りしたの?」
「・・・・うん」
友人らがコソコソと聞いてくる。
宮田という単語を出しただけで奈々の顔が赤くなったのが分かり、友人らは顔を見合わせて、ぐいっと奈々を取り囲むように詰め寄りながら、
「ひょっとして、付き合ってる、とか?」
「・・・・ハイ・・」
奈々の言葉に再び顔を見合わせ、それから大声でキャーッと黄色い歓声を上げた。
「木村さん、スパーしましょうよ」
グローブを嵌めながら、宮田が声を掛けた。
「お前最近、やたらとオレを指名するよな・・・」
「会長の指示ですよ、オレと体格近いでしょ?」
「・・・ひょっとして、言いふらしたの根に持ってんのか?」
木村もまたグローブとヘッドギアを嵌めて、リングに上がる。
カン、と固い金属音が鳴り、二人はグローブを合わせた。
宮田は軽快なステップインから、テンプルを狙ってフックを打つ。
とっさにガードした木村の脇腹が空くと、そこに続けてボディブローを打ち込んだ。
「ぐはっ・・・」
思わず倒れ込む木村を見下ろしながら、宮田はボソリと呟いた。
「まだ許してませんから」
木村は腹を押さえながら、声を絞り出すように呟いた。
「・・・勘弁してくれよぉ・・・」