長編「TENDERNESS」

□35.TENDERNESS
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たっちゃんはバカだ。


バカがつくほど、優しい。


後から聞いた話。

私たちのためにたっちゃんが
一芝居打ってくれたって。

宮田は話を広められたと怒っていたけど、
それってたぶん、宮田に貸しを感じさせないように、
敢えて言いふらすことで、
憎まれ役を買って出たんじゃないかって、
私にはそんな風に思えた。


そして宮田も、それを分かっていながら
たっちゃんの気持ちを汲んで、
わざと怒っているんじゃないかって思う。


なーんてね。






「おはよう」


奈々が宮田の頭上から声を掛けると、宮田はゆっくりと顔を上げて「おはよう」と返した。
それから目と目を合わせて、軽く微笑み合う。


休み時間、コトンと机に置かれたイチゴ牛乳。


「あら、また買い間違えた?」
「そんなとこ」


宮田は牛乳を飲みながら、平然とした顔で答える。



「ねぇねぇ、奈々」
「ん?」
「宮田くんと仲直りしたの?」
「・・・・うん」


友人らがコソコソと聞いてくる。
宮田という単語を出しただけで奈々の顔が赤くなったのが分かり、友人らは顔を見合わせて、ぐいっと奈々を取り囲むように詰め寄りながら、


「ひょっとして、付き合ってる、とか?」
「・・・・ハイ・・」


奈々の言葉に再び顔を見合わせ、それから大声でキャーッと黄色い歓声を上げた。









「木村さん、スパーしましょうよ」


グローブを嵌めながら、宮田が声を掛けた。


「お前最近、やたらとオレを指名するよな・・・」
「会長の指示ですよ、オレと体格近いでしょ?」
「・・・ひょっとして、言いふらしたの根に持ってんのか?」


木村もまたグローブとヘッドギアを嵌めて、リングに上がる。
カン、と固い金属音が鳴り、二人はグローブを合わせた。

宮田は軽快なステップインから、テンプルを狙ってフックを打つ。
とっさにガードした木村の脇腹が空くと、そこに続けてボディブローを打ち込んだ。


「ぐはっ・・・」


思わず倒れ込む木村を見下ろしながら、宮田はボソリと呟いた。


「まだ許してませんから」


木村は腹を押さえながら、声を絞り出すように呟いた。


「・・・勘弁してくれよぉ・・・」
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