長編「TENDERNESS」
□27.もしも
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たっちゃんの時は、こんな風にイライラなんてしなかった。
たっちゃんは格好良いなとか、優しいなとか
考えているだけで幸せで
たっちゃんの側に居られない自分に腹は立ったけど
宮田はいつも冷たくて、何考えているか分からなくて
最近は側にいても落ち着かないくらいで
あいつのことを考える度に腹立たしくなる。
どうしてこんなに苦しくて、腹が立つのに
どうして泣きたいくらい悲しい気持ちになるの?
どうしてこんな風に怒りに震えながら
こんなにも相手を好きで居られるんだろう?
「好き」ってなに?
最近、奈々は宮田の悩みが頭から離れず、どうも何をしても身が入らなかった。
好きな科目であるはずの体育すら、頭が上の空でいい加減に過ごしてしまう。
夏もすっかり終わりに近づき、そろそろ球技大会の話が持ち上がってきた。
それの予行練習とあってか、グラウンドは奈々の気も知らずに盛り上がっている。
今日はクラスの半分がソフトボールとサッカーに分かれての練習をしていた。
奈々も宮田もソフトボール組に入ることになり、男女混合での練習試合が始まった。
3組VS4組の試合。
奈々はベンチで自分の打順を待っていた。
時折カキーンと気持ちのよい打撃音が聞こえてきたが、奈々にはテレビの向こうの甲子園のように遠く感じられた。
そうこうしている内に、宮田の打順が回ってきた。
一瞬、女子から黄色い歓声が飛ぶ。
奈々はどこを見て良いやら分からなかった。
あまりジロジロと見るのも面白くないと思って、わざと遠くのサッカーの試合を見るように目を細めた。
目の前の試合の風景どころか、音までもが遠く遠くに感じられる。
随分と遠くなった太陽を眺めて、奈々は今年の夏を思い出していた。
あの頃は、木村のことが好きで好きで、太陽を見る度に応援していたな。
そんな懐かしい思いに胸が少し痛んだ、その瞬間だった。
「奈々、危ない!!」
友人の叫び声も虚しく、奈々が気付いたときには、頭を鈍い衝撃が走っていた。
思わずベンチから崩れ落ちる。
一体何が起きたのかと思い、やっとのことで目を開けると、上から宮田が自分をのぞき込んでいるのが見えた。
「大丈夫か、高杉」
なぜ宮田が自分をのぞき込んでいるのかよく分からない。
よく見ると宮田だけじゃなく、友人らやクラスメイトまでもが自分を見下ろしていた。
「大丈夫・・・」
と良いながら身体を起こすと、頭に激痛が走った。
近くにソフトボールが転がっている。どうやらファウルボールが直撃したらしい。
怪我を聞きつけた体育教師が走ってきて、その場を制しながら奈々の様子を伺う。
「ファウルボールが当たったのか・・・大丈夫か?意識はハッキリしてるか?」
「はい・・すいません、ボーッとしていたもので」
「謝る必要はない。とりあえず保健室に行こう」
あまりの騒ぎに、次々と人が集まってきた。
サッカーのグループですら、試合を中断して遠くから様子を伺っている。
奈々がようやくのことで立ち上がると、宮田が担任と奈々の間に割って入り、
「オレが連れていきます」
「宮田、お前・・・」
「元々はオレの打った球なんで」
「そうか・・・じゃあ頼んだぞ」
淡々と進んでいく二人のやりとりを見て、余りにも大げさだと思った奈々は
「別に大したことないし、ちょっとここで休めば・・・」
すると宮田は声を荒げて
「いいから行くぞ」
というなり、奈々の手を引っ張って強引に歩き出した。
怪我人と怪我をさせた本人とは言え、噂になったばかりのカップルである。
中には口笛を吹いて茶化すような男子もいた。
それを意にも介さず、宮田はすいずいと歩いていく。
「ちょっと宮田!」
「・・・頭だぞ頭!大したことないわけないだろ!」
「何言って・・」
「保健室行ったあと、絶対病院に行けよ」
「大げさな・・・」