長編「TENDERNESS」
□24.同じ感情
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たっちゃんがフラれたと、わざわざ鷹村さんが教えてくれた。
第一報を聞いたとき、昔の私ならおそらく
喜びを隠しきれなかったと思う。
大好きな人がフラれて落ち込んでいるのに、
それを喜んでしまうなんて、
随分と最低な根性の持ち主、と自虐しただろう。
でも昨日の私は、たっちゃんが可哀想だと思った。
喜びは微塵もなかった。
それは私が人間として大きく成長した証・・・では無い。
私はいつだって、そんな立派な人間ではない。
そう、つまり、私はもう、
たっちゃんがフラれて喜ぶ人間では無くなってしまったのだ。
「奈々、さっき新聞の契約更新で映画のチケットもらったんだけど欲しい?」
母親がひらひらとチケットを振りながら、ソファで雑誌を読んでいる奈々に話しかけてきた。
「何の映画?」
「あんたの好きそうなやつ。私はちょっと苦手かなぁ」
「お母さんが見ないならもらうよ」
そういってチケットを受け取ると、最新のハリウッド映画のタイトルが書いてあった。
協賛の所に、契約を更新した新聞社の名前がある。
随分気前が良いなと思ったらそういうことか、と奈々は大人の事情を察した。
2階に上がり、無くさないように手帳にチケットをはさむ。
ふと、誰と行こうかと考えて、一番最初に思いついたのは・・・・宮田だった。
「いやいや、なんでアイツが!」
と首を振りながら、頭上に浮かんだ綿雲のような妄想を打ち消す。
普段ならすぐにでも木村に電話をしたはずなのに、今回はそういう気持ちになれない。
仲の良い友達はいつも数人で固まって行動しているため、ペア券があったところで使いづらい。
オマケに、女の子が見て楽しいような映画ではないような気もした。
もう一度手帳を開いて、チケットをよくよく見てみると、作品の監督は、奈々が大ファンであるスティーブン監督の愛弟子、リッキー監督だった。
そうなるともう、誘う相手は1人しかいない。
奈々はそれを考えただけで、胸が高鳴るのを感じた。
以前は木村に断られた“ついで”に誘っただけの単なるクラスメイトだに過ぎなかったのに、どうして今はこう緊張するのだろう。
自分の中で、何かが変わっているのはうすうす気がついていた。
それでも、それを直視する勇気がない。
「大丈夫、あいつはただの友達。ただの友達。ただの友達・・・普通に誘えば大丈夫」
まじないのように唱えた後、再び手帳を閉じた。
「ねぇ、宮田」
伏せて寝ている宮田の頭上から、奈々が話しかけると、宮田は面倒くさそうに起き上がって「何」と呟いた。
あからさまにやる気のない態度に奈々は一瞬怯んだが、負けじと気丈に、
「映画行かない?チケットもらったんだけど」
「行かない」
宮田はそういうと、また机に伏せて眠ってしまった。
あんまりな態度に、奈々は宮田の肩を掴んで無理矢理起きさせ、
「ちょっと!タイトルくらい聞きなさいよ!」
「興味ないから」
「リッキー監督の最新作だよ!?」
「・・・・だから行かないって」
宮田の態度が、奈々にとってはこれまでと違って酷く頑なに思えた。
まるで自分の全てを拒絶するかのように、自分の顔すらロクに見ようとしない。
これ以上誘ってもOKする気配は無いと、奈々は諦めて宮田の肩から手を離した。
「木村さんと行けば?」
宮田が頬杖をついて言う。
奈々は思わずドキリとして、多少どもりながら答えた。