長編「TENDERNESS」

□23.自覚
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好きじゃない、なんて言われると
誰だって傷つくじゃない
例え自分が相手を好きじゃなくても

だから、この胸の痛みは
普通の胸の痛みなんだって

早く治まってほしい
早く忘れたい


手を伸ばしてアイツを掴もうとする夢を見た


忘れたいのに、どうして
あの写真を捨てられずにいるんだろう





「聞いたか!?宮田ぁああ!!」


ロードワークから帰るなり、鷹村が満面の笑みで宮田の肩に手を回した。
疎ましいと一瞬思ったが、それを露骨な態度で示すと面倒なことになると思い、ポーカーフェイスで宮田が聞き返す。


「何がです?」
「木村だよォ!!あの野郎、フラれたんだってよォ!!」


鷹村が指さす方向に目を向けると、ベンチに座ってうなだれ、半ば魂の抜けかかった木村の姿が見えた。
意気消沈、という言葉がふさわしい様子に、半径1メートルの空気が澱んでいた。


「付き合って3ヶ月も経ってないんだぜ!?笑っちまうよな!!ギャハハ!!」
「鷹村さん、そっとしておいてやってくださいよォ」


木村を気遣うセリフを吐きながらも、どこか嬉しそうに青木が言う。


「前の彼氏が忘れられないってよォ!!ケッサクだぜ!ヘナチョコボクサーに女なんて10年早ぇんだよ!」
「〜〜〜〜こないだKOしたじゃないっスか!」


茶化し放題な鷹村のセリフに、木村がキツい目をして言い返した。
しかし鷹村はそれを意にも介さず、今にも浮き上がりそうな軽い足取りでジム内を行き来している。


「宮田ァ、お前もこれで辛い立場になったナァ」
「・・・は?」


鷹村の言葉に、宮田は些か苛立って聞き返した。
どういうつもりでソレを聞いたのか、勘の良い宮田にはすぐに理解できたからである。


「ライバルがフリーになっちゃったねぇ〜」
「どういう意味です」
「妹ちゃん、また木村の方に戻っちゃうんじゃな〜い?」


やっぱり、と宮田は確信した。
鷹村はなぜか、他人の色恋に対するゴシップ感覚に優れている。
花火の時も、なぜかわざわざ二人で帰らせるように仕向けられたような気がしていた。
それ以前に、今まで何か誤解を与えるような態度を取っただろうかと思い直したが、どうも思い当たらない。

本心を悟られまいと、宮田はフッと笑って


「オレには関係ないでしょ」
「スカしちゃって一郎ちゃ〜ん。オレ様が気付いていないとでも?」
「くだらない」
「それとも、気付いていないのはキサマ自身かもなぁ?」


目を三日月のように細めて、じわりじわりと他人の失言を煽ろうと迫る鷹村。
宮田は内心苛立ちながらも、その作戦には乗るまいとポーカーフェイスを貫く。


「人の心配する前に、自分の心配したらどうです?」
「ぬ?」
「合コン連敗中なんでしょ。木村さんより最悪じゃん」


宮田は意地悪そうに笑って鷹村に背を向け、シャドーを始めた。


「宮田ァ!キサマァ〜〜!!」
「ちょっ・・・落ち着いてくださいよ!鷹村さん!!」


今にも宮田に殴りかかりそうな鷹村を、青木が後ろから羽交い締めにするように抑えている。
いつもなら木村と二人がかりで止めるところを、肝心の相棒はベンチで意気消沈したままだ。
チラチラとアイコンタクトを試みるも、木村は顔を上げる様子が無い。


「なーにしとるんじゃぁあ!!バカ者がぁあああ!!」


騒ぎを聞きつけた会長が、例の如く鷹村をステッキで一打に伏す。
鷹村はようやく静まったものの、頭から湯気を出しながら「走ってくらぁ」と言い残してジムを出て行った。
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