長編「TENDERNESS」

□18.恋する気持ち
1ページ/2ページ

とうとう、たっちゃんの試合の日になった。
たっちゃんは今、何を考えているんだろう。

本当は一番近くで励まして
心の支えになりたかった。

だけど実際は、一番遠くにいて
邪魔にならないように息を潜めているだけ。

たっちゃん、頑張って。

私には、それしか言えないのに、
それすらも、言葉に出来ない。




木村の試合が始まった。
緊張した面持ちでリングに上がる木村を、奈々はただじっと見つめていた。

1R目は身体の固さからパンチをもらうこともあったが、今日はノリがいいらしい。
2R終盤でダウンを奪うと、3〜4Rと猛攻し、相手に主導権を取らせずに、TKO勝ちをおさめた。

2試合連続のKO劇に、客も熱を帯びてきたらしい。大きな歓声が場内を包む。
木村は大きく手を振りながら四方にお辞儀をし、リングを去っていった。


「そういえば、宮田はなんで出ないの?」

当たり前の質問をする奈々に、宮田は目を伏せて答える。

「プロのライセンスを取れるのは17歳からなんだよ」
「へぇ。じゃ、来年からだ」

いつぞや木村から、宮田はボクシングの天才だという話を聞いたことがある。
普段は大人しく、人を殴るところなど想像もできない宮田が、どんな戦いをするのか自然と興味がわいた。


「宮田がプロボクサーになったら、またこうやって応援に来るからね」


奈々が満面の笑みでそういうと、宮田は一瞬、重たい鼓動が胸を突き抜けたのを感じた。


「・・・どうも」

宮田にとって、プロボクサーになって父親の無念を晴らすのは積年の夢であり、目標でもある。
それを改めて「応援」と言われると、なんだか気恥ずかしいような、ムズムズするような気持ちにさせられる。
楽しそうな表情であれこれ話しを続ける隣の奈々を、宮田は直視できないでいた。


続いて鷹村の試合も終わり、後楽園ホールは帰宅客でごった返した。

「ちょっと控え室寄っていいか?」
「私も行っていいの?」
「問題ないだろ、身内なんだし」

宮田の「身内」という言葉に若干の棘を感じたものの、特に何も言い返せない。
自分を待たずにさっさと背を向けて歩き出した宮田を、奈々は小走りで追いかけた。


控え室の前に着くと、1人の女性が立っているのが見えた。
清楚な大人の女性、という感じだ。
奈々はすぐに、その女性が誰かというのに気がついた。

心臓がピンと張り詰める。

女性は少し困っているようで、こちらに気付くなり、近づいて話しかけてきた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ