誰がために薔薇は微笑む

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学園長からの‘おつかい’を終わらせた私は
友人に何か土産でも、と思いながら街を歩いていた。


道行く人々や見世の会話を無意識に聞き取ってしまうのは、もはや職業病と言ってもいいだろう。



そんな中見つけた一つの人影



「え・・・?」



反射的に足を止め、確認するように凝視してしまうと
あちらも私に気付いたようで、整った顔を綻ばせて片手を挙げた



「やぁ、白亜。お使いかい?」

「はい。兄様は・・・お仕事で?」

「うん、今ちょうど終わったところだよ。白亜は?」

「私も、今から学園に戻る所です」

「だけど、街で会えるなんて運がいいな。白亜の小袖姿を見るのも久し振りだ」

「それは兄様がお仕事ばかりで家に帰ってこられないからでしょう?私、いつも家では小袖姿ですよ」

「これは一本取られたな。そう言われると反論の仕様が無いじゃないか」

「ふふ、兄様?今のお顔叔父様にそっくりです」

「ああもう・・・!!白亜こそ、いつからそんな母上の真似をするようになったんだい?」


愉しげに笑い私を小突く利吉兄様


あの事があっただけに気まずい思いをするのではと心配していたが

いつものように接してくれることに、いつもと同じに話せたことに、心底安心した



「学園には直ぐに帰らなくてはいけないのかい?」

「いえ。予定よりも早く終わりましたし、早急に報告すべきこともありませんので時間には余裕がありますが」

「それなら・・・あと一日遅くなってもかまわない?」

「あ、はい。特に問題はありませんが?」

「そうか。なら・・・」



利吉兄様はそこで一旦言葉を切ると、真上を少し過ぎた太陽に目を凝らした。

季節は秋口といえ、まだまだ残暑が抜け切らない



「少しだけ、家に寄っていかないか?」




+++++




「母上、只今帰りました」



野を越え山を越え・・・との表現がぴったりな道のりを越え、辿り着いた山田家


秘境、と言っても差し支えないようなこの場所に1つだけ建つ民家は目立つ

そして同時に、この場所にただ1人でいる叔母様の何と心細い事か、と
夫と息子を待つその心をお察しする。



なので---



「随分と久し振りなことですね、利吉・・・」

「ご、ご無沙汰しております母上・・・」

「ええ、ええ。そうでしょうとも。母は、もうすぐ貴方の顔を忘れる所でしたよ?」

「いや、その・・・」

「やれ仕事だやれ任務だと・・・貴方はもう、本に父上に似てきましたねぇ」



滅多に家に帰らない利吉兄様に詰め寄る叔母様をお止めする事はできない。

できない、が・・・


「ちょ、待っ・・・あ、危ないですよ母上!!」

「問答無用です!!」


「(流石にクナイ片手に凄むのは怖いです叔母様!!)」


元くノ一の名は伊達じゃない。と感嘆する


しかし、間抜けに口を開けてぼんやりしていたのが悪かったのだろうか


「はは、母上!!今日は白亜も一緒なのですよ!!」

「え?白亜も?」


利吉兄様の担ぐ荷物に隠れて縮こまっていた私

兄様に押し出すように肩を押されおずおずと顔を出せば、山田夫人の表情も柔らかい物に変わった



「あらまぁ!!お帰りなさい白亜、息災そうで何よりです」

「た、只今帰りました」

「休暇はもう少し先ではなかったかしら?まぁいいわ、よく帰って来たわね。ささ、早く中にお入りなさいな」


ほっと溜息を付く利吉兄様をじとりと睨む


人身御供にされたようにしか思えなかった。





2011/11/13
 

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