誰がために薔薇は微笑む

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「足りない薬草は、直ぐに必要なものばかりなの?」

「うーん…今直ぐに使う、というわけじゃないけどさ。でも、残りの量が少ないと心配だし」

「薬草園でも足りないなら、買い付けに行くしかないのよね?」

「そうなんだけど・・・その、予算が・・・・」

「ああ・・・・じゃあ、裏山か少し先の---」


「白亜、ここにいたのか」


「留三郎?」



保健室で伊作の手伝いをしていた白亜

薬草を仕分けていた手を止めて戸口を見れば、何とも言えない顔で所在無さ下に立っている同級がそこにいた。



「どうかしたの?」

「いや、その・・・元気か?」

「?ええ、息災ですけれど…」

「ならいいんだ!!いや、そうじゃなくて!!」

「は?」


不思議そう、というよりも不審な眼差しで見られた留三郎

そんな同級であり親友の思いを汲み取ったのか、伊作が慌ててフォローに回った



「あああぁ!!えっと、ほら、悩んでることとかあったら何でも言ってって事だよね、留さん!!」

「ああ!!話ぐらいいくらでも聞いてやるからな白亜!!」

「・・・・・は?」


「「・・・・」」



空気は更に悪くなった


不審、どころか胡乱な視線を寄越されて、6はの二人は次の言葉が出てこない。


常に穏やかな彼女には珍しい、大いに呆れたような表情


伊作と留三郎の二人は顔を見合わせると、覚悟を決めたように口を切った



「えっと、その・・・」

「仙蔵、が・・・」


「え?ああ、その事ですか」


「「・・・・」」



恋に破れた女にしては、あっさりしすぎなんじゃないのか。


きょとん、と目を瞬き
今の今まで忘れていました。と言わんばかりの彼女の態度に
男二人は拍子抜け、というか呆気にとられてしまう



「知っていたのですね」

「まぁ…」

「その、な・・・」

「まぁ、言わずとも見ればわかることでしょうけれど。あ、この薬草はこの戸棚でいいのかしら?」

「え!?あ、うん!!そこで大丈夫だよ」



心変わりをした男を、歯牙にもかけていないこの様子

嘆くどころか未練の欠片も無さそうである。




仙蔵と白亜の二人は、同友から見ても想い合っていた


忍者の三禁に数えられるうちの一つである、色

しかし、それでも互いに絆を結び、尊敬し合い高め合う二人は、同級の彼等の理想でもあった



だから伊作と留三郎は、仙蔵の心変わりを聞いた時には悲しみと、そして深い憤りを覚えたのだ


「白亜・・・」


心配を隠しきれないという伊作の様子に、白亜は溜息を一つ落とすと困ったように微笑んだ


「あのね、私は虚勢を張っているわけではないの。その、仙蔵のことは哀しいことではあったのだけれど・・・」

「けど?」

「今ちょっと、それどころではなくて」


終わったことに心を砕いている暇は無いの。


きっぱりと言い切った、哀しみの色は無い彼女の笑顔に友人達も溜息を付いた。安堵の。



「はぁ・・・俺達の取り越し苦労だったのかよ」

「はは、そうだね・・・うん。でも・・・よかった」

「ああ。お前がいいならもう、それでいいさ」


「ふふ、ありがとう---私などに心を砕いてくれて」

「友達を心配するのは当然のことだよ」

「ああ。今となっては数少ない・・・まともな友人だしな」


その意味する事を言わずともわかる三人


彼等は疲れたように、哀しむように視線を交わす




障子で仕切られた窓の外からは、華やかな笑い声が聞こえていた。




2011.8.23
 

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