深海少女

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時が経つのは早いもので---
(色々と悩んだり画策していたから、毎日が更に早く感じたのかもしれない)



本日は立海大付属中学校の文化祭・海原祭の前夜祭である。



前夜祭への参加は立海生のみ

それぞれのクラスや部活が最終的な準備をしながら楽しむ、といった感じだ。


私も例に漏れず、筝曲部の最終確認のために校内を回っている所



そして廊下を歩いていると、ぽぽぽぽーん♪という何処かで聞いた事のあるような音楽の後
始まったのは毎年恒例、放送部の催し


事前に生徒からの投稿を受け付け、放送部がパーソナリティーとなってそれを読む
簡単に言えば、ラジオの生放送のようなものだ。


愛の告白に始まり、懺悔やらただの伝言に果ては悪口まで


簡単な規制ラインに引っ掛からなければ割りと何でもアリなので、大いに盛り上がる。


名前はわざとバレバレなネームで投稿するのもありだし、匿名も可能
もちろん本名もOKだ



立海前夜祭を盛り上げる名物の1つなのだ。




+++++




「すみません、茶道部の部長さん呼んでもらえますか?」

「いいですよ。ちょっと待ってて下さーい!!」


先ほどからの放送で、訪れたクラス内は結構な盛り上がりを見せていた


筝曲部の隣のブースで出し物をする茶道部とは、何かと協力する事が多い

今年も『琴の音色を聞きながらお茶をどうぞ』という誘い文句で、客寄せをするつもりなのだ。



「(あ・・・)」


クラスの中には仁王と丸井君の姿


風船ガムを膨らましながら片手を挙げた丸井君に私も会釈を返そうとした所で---



『次は---お名前‘魔王’さんからの投稿です。ハハッ!!すごいペンネーム使ってきましたねー!!』


「「「・・・」」」



スピーカーが、恐ろしい事を話し出した。



無言で目を合わせた仁王と丸井君、そして私



何の合図もいらず、目と目で心が通じ合ってしまった。

もう自分がテニス部に染まっている気がする。地味にショック。


今頃、他のクラスのテニス部メンバーも息を呑んで放送を聞いているだろう。



『では魔王さん・・・いや、魔王様からのメッセージ!!伝えるお相手は、3年柊羽音さんです!!』


「「「・・・」」」



仁王と丸井君のみならず、クラス全体・・・さらに廊下に居た生徒からの視線も全てが私に集まった。


耳を塞ぎ天岩戸に隠れてしまいたいが、生憎私は人間


逃げ出す事もできずその場に立ち尽くす私に、神の代弁者はやはりとんでもない爆弾を投下した。




『‘俺が君を好きなんだから、君を俺を好きになるべきだよね?’』



「「「・・・」」」



今直ぐこの場で気を失えたならば、どんなにか楽だっただろう


しかし、数々の出来事を乗り越え逞しく育った心臓と精神は、私に『気絶』という逃げ道を与えてくれない



『あはは!!コレすごいとんでも原理ですね!!何処の折原臨也さんだっつーの・・・え?これ、ゆき・・・!?あ、あああとても情熱的な愛の告白ですね!!』

「「「・・・」」」



相手が誰か気づいたのか…



多分この瞬間、私とテニス部の人間の心はシンクロした。



そして、クラスにいたテニス部2人の視線が突き刺さる


お前の今後の行動が俺等の未来を決めるんだからな!!頼むからな!!と 
小鹿のような視線を向けられても、私は何もできんがな。





言うまでもないが、クラスへ戻る道中も私は視線のむしろに晒された。


‘魔王’の正体を知っている生徒---主にテニス部員達の縋るような視線と憐れむような視線を受け続けた。




私を見て囁かれる言葉の中に‘魔王の生贄’という単語があった事だけは---今直ぐに忘れたい




2011.8.13
 

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